My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
「うん。私のこと、いつも気に掛けてくれてありがとう。ティキには会えなかったけど、今日はワイズリーに会えた。それで充分だよ」
「の…」
此処は雪の世界だ。
ワタシはそれを覗き見ることができる魔眼。
だからこそわかる。
目の前の雪の真っ直ぐな思いが、嘘偽りないことを。
…いかんのう。
柄にもなく胸がざわついてしまった。
「ワタシも早く本物の御主に会いたいものだ…」
「え? 何?」
「単なる独り言だ、気にするな」
この時ばかりはティキの心に同調した。
思考の世界でもこれだけ惹かれるというのに、本物の雪と出会えばそれは欲しくもなろう。
備えたメモリーは"憤怒"だが、彼女の性質そのものは柔軟で靭やかだ。
一体どんなノアとなるのか。
その力を確固たるものにすれば、前回の怒のノア、スキン・ボリックを超えるノアになるやもしれんのう。
やはり、欲しい。
「それより雪。体に不調はないか?」
「不調?」
「些細なことでも、なんでもいい。いつもと違うところは」
「…ううん、特には…」
「ふむ」
となるとリヴァプールでのノアの覚醒は、一時的なものだったのだろう。
デザイアスの記憶から読み取った光景では、枷とされたイノセンスに反応して力を解放していた…まんまと黒の教団に操られたか。
「体は…大丈夫なんだけど…」
「む?」
「心の方が…追い付いて、なくて…」
「どうした?」
どんどんと声を尻窄みにさせる雪。
その顔は暗く影を帯びる。
何かあったのかと問えば、その口は真一文字に結ばれた。
「話してみよ。此処にはワタシしかいない。誰も聞いていないぞ」
「……ュゥ、が…」
優しく促せば、ようやく雪の口からぽそりぽそりと伝えられた。
そこにはあのセカンドエクソシストの名があった。
「ユウが…何を考えているのか、最近、わからないの…」
「…主の恋人のことか。何かあったのか?」
何かも何も、知ってはいるが謗らぬフリをする。
デザイアスは他人の心を責めることに関しては、誰よりも適任者だ。
雪の心を確かにあの時、深く抉っていたであろう。
彼女の弱点である、最愛の者を使って。