My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
此処は雪の意識の世界。
幾度と出会いを重ね言葉を重ね、今ではワタシにも心を開いてくれるようになった。
その中で魔眼の力を使えば、潜在意識まで潜ることも難しくはない。
「悩みがあるなら聞こう。話してみよ」
「……ワイズリーは、自分の子供の頃って憶えてる?」
「子供時代か? ふぅむ…そうだのう、多少は」
魔眼の記憶を持つワタシには、幼少期も何もない。
鮮明に昔の、それこそこの体ではなかった以前の"ワイズリー"の記憶をも引き出すことができる。
そんなワタシにそんな問いは意味を成さぬが、縋るような雪の問いに応えぬ理由はなかった。
「私は、ないの」
「む?」
「小さい頃の、記憶。引き離されてからずっと、強く父と母だけを思って生きてきたのに…肝心のその二人との思い出が、見つからない」
「両親と共に過ごした記憶、ということか?」
言葉には出さず、僅かに俯きがちに雪の顔が頷いた。
「余程幼ければ、記憶も曖昧になろう。人は物事を忘れていく生き物だ」
「でも…一つも憶えてないことなんて、ある?」
「全く憶えておらんのか? 些細なことも」
「断片的になら、幾つか…父が私を小母さんに預けた時のこととか…」
「ふむ」
雪の話を聞きながら、考える素振りをして魔眼を発動させる。
思い出そうと俯き頭を働かせる雪に、私の額の第三の眼から溢れる光は見えていない。
第三の眼を開いたまま、両目を閉じる。
やがて閉じた瞼の裏に映し出すかのように、覗き混んだ雪の記憶が表れ始めた。
どんどんと記憶を遡るように、瞼に映る雪の姿が急速に幼くなっていく。
神田ユウと恋仲になる前のファインダー時の姿。
クロス・マリアンに保護された時の姿。
教団へ訪れた時の姿。
親族に冷たい仕打ちを受けていた時の姿。
それから、小母へと引き渡される時の姿。
ほんの5、6歳程だろうか。
雪の言う父母であろう、東洋系の男と西洋系の女に連れられた小さな少女が、小母へと引き渡される。
声は発さないものの、頑なに首を横に振って父から離れまいと腕を握る姿に、健気さを感じた。
雪の言う断片的な記憶だろう。