My important place【D.Gray-man】
第49章 つむぎ星に願いを
"我慢してくれ、雪"
"此処にいれば安全だから"
宥めるように父に言われ、母に言われ。
父と同じ黒い瞳が、訴えるように二人を見つめ続ける。
目はそれ程に感情を語っているのに、肝心の幼い唇は一つも動かない。
沈黙を守ったまま、幼い少女は首を尚も振り続けた。
"わかって頂戴。貴女の為なのよ"
日系フランス人と言っていたのは、この母を持った為であろう。
雪とは似つかぬ高い凹凸のある顔立ちと、色素の薄い瞳と髪。
それでもその口から発せられるのは日本語だった。
子を思う母の目で、雪を見つめ懇願する。
"此処にいれば、もう辛い思いをしなくて済む"
エクソシストの父を持ったが為に、教団に利用されることを恐れての意味なのか。
しかし、"もう"とは?
以前もそんな経験を雪はしていたのだろうか。
更に記憶を遡っていく。
断片的だと言っていた雪の父と母の記憶。
それは確かにそこに存在していた。
先程までの記憶とは違い、故障した液晶のようにブツリブツリと途切れがちに見えてくる景色。
そこには確かに雪と両親の共に過ごした記憶があった。
しかし何故だろうか、何か引っ掛かる。
「…?」
それがなんなのか、備に視ているとやがて気付いた。
"距離"があるのだ。
共に食事を取る時も、共に眠る時も、共に触れ合う時さえも。
両親にはなくとも、感情に素直な子供である雪はそうはいかない。
手を伸ばし求めはするものの、そこには不慣れさを感じた。
微かだが、確かなぎこちなさだ。
友人や仲間であれば問題視もしなかったが、普通親子というものにはないはずの距離感。
それがなんとも奇妙で、微笑ましい家族の光景だからこそ違和感を覚えた。
ザザ──…
急に記憶の光景が一変した。
途切れがちだった記憶がブツリと事切れたように消え去り、雑音と共に生まれたのは全く異なる景色。
灰色の空。
淀んだ空気。
瓦礫や廃棄物で埋もれた其処は、人の痕跡が残されているものの、人の気配は全くない。
まるで世界に置き去りにされたかのような、荒れた地だった。