My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「…はぁ」
沈む空気の中、切り出したのは怠けたティキの溜息だった。
ガリガリと頭を掻きながら、空いた手はぽんとロードの頭を撫でる。
「心配してくれてんのはわかったけど、俺のことわかってる?家族同士のいざこざなんてあり得ねぇよ」
14番目は別だけど、と付け足して、見上げるロードにティキは初めて僅かながら笑みを見せた。
「俺は雪を教団から助け出したいだけだ。それはお前らも一緒だろ?」
「それはそうだが、あの雪の父のイノセンスが厄介なのだ」
「わかってるって。下手に手を出したら雪に被害が向くんだろ」
だが、指を咥えて見ているだけなど願い下げだ。
「だからって好機を待つ気はない」
雪の現状を目の当たりにした今、黙っていられるはずもなかった。
偽りの愛に身も心も縛られ、教団の為に朽ちていく彼女など見たくない。
「少年のイノセンスを破壊し損ねた時に、感じた癖にな。忘れてたよ」
アレンの左腕のイノセンスを粉々に砕いたはずなのに、それは塵状となっても宿主に執着しより強固に成長してティキの下へと戻ってきた。
再びアレンと戦いを交えた時に、身に染みて感じたはずだった。
自分達ノアは人間に対して必要悪ではあるが、千年伯爵の終焉のシナリオでは間違いなくエクソシストがそちら側の存在だ。
彼らは終焉を阻む為なら、寄生虫の如くしぶとく強く牙を剥き抗ってくる。
潰すなら徹底的に叩かねばならない。
「雪の為に徐々に記憶を刷り込ませてって面倒なことやってたけど、それだけじゃ駄目だ。人の思いは何よりも弱くて何よりも強いもんなんだろ」
「…そうだのう」
「雪がその身を削ってでも教団に奉仕してるのは、あのセカンドエクソシストの為だ」
「ならば奴を殺すのか?」
「それはあんまりお勧めしないけどねぇ」
淡々とした口調で、救急箱に包帯や消毒液を直しながら首を横に振ったのは、シェリルだった。