My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に
楽じゃないのは、神田とアレンのこと以外にもあった。
「あっ」
カーラさんに案内された墓石の前。
ミランダさんによって綺麗に修復されたチェス盤を前に、座っていた私は思わず声を上げた。
目の前に浮かんだ青白い手首が、握った駒でカンッと私のキングを弾く。
「チェックメイトですね」
傍観していたリンクさんが、淡々と勝敗を口にする。
それは私の負けを意味していた。
「雪ちゃんも負けちゃったわね…」
「秒殺過ぎんだろ」
「流石チャンピオン」
「これで六人抜きかーっ」
がくりと肩を落とす私の後ろで、皆それぞれ思いを漏らす。
勝った相手は特に喜ぶこともなく、静かに墓石の前で浮かんでいる。
そこには大きなルビーの指輪をはめた、青白い手首が一つ。
これがカーラさんの言っていたベン・マーチンの亡霊らしい。
最初見た時は怖かったけど、こうも周りに大勢の人がいれば恐怖はすぐに薄れた。
というかそんな呆れ顔で、秒殺言わないで下さい。
神田だってすぐ負けたでしょ。
「あと残ってるのって…あれ、リンクだけ?」
「私はウォーカーの監視役です。任務遂行は管轄外なので」
「そんなこと言わずに!」
「オレら全滅しちゃったんですよー」
「チェスをするだけだし。ハワードさん、お願いできないかしら」
イノセンスである指輪を貰う為には、ベン・マーチンとのチェスの勝負で勝たないといけない。
でも相手は世界チャンピオン。
あっという間にリンクさん以外全員、負けてしまった。
「…全く」
アレンにキエさんにマオサさんにミランダさん。
四人の期待を込めた視線を受け、流石に耐え切れなくなったのか。渋々リンクさんはチェスの前に腰を下ろした。
「一試合だけですよ」
「勿論! 頼みますよリンクっ」
再び綺麗に揃えられる駒に、新しく試合が始まる。
負けた私は肩を落として後方に退いた。
勝てる気は到底してなかったけど…こんなあっさり負けてしまうなんて…。
「というか、勝てるのかな」
相手は世界チャンピオン。
これでリンクさんまで負けてしまったら、どうやってイノセンス確保しよう…。
なんだかんだ、やっぱり楽な任務なんてない。