My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「はて。知っていた、とは?」
「惚けんなよ覗き魔野郎。雪のイノセンスのことだ」
〝イノセンス〟
その名を低いティキの声で耳にした、ノア達が止まる。
騒ぎ立てていたジャスデビも、嫌味を向けていたシェリルも、今一番の問題がなんなのか知っていた。
あの大聖堂で、骨身に染みるように感じた禍々しい十字の結晶体だ。
「あれはなんだ。首輪で所有物扱いした挙句、痛みで従わせるなんざ。駄犬扱いかよ」
「それが教団のやり方なのだ。ティキも知っているだろう。あ奴らは雪の体を焼いて、ノアであるか証明した者達だぞ」
「俺が言ってるのはそこだけじゃない。こういう時に限って頭ん中覗かないのか」
ゆらりとソファから身を起こしたティキの影が、目の前に立っていたロードにかかる。
すっぽりと覆い尽くす程長く黒い影に、ロードは首を折り曲げて高い身長を見上げた。
「雪を縛ってるのは、あいつの父親のイノセンスだ」
「………」
「そうだろ」
「…遅かれ早かれ、いずれ知り得ることだった」
「だったらなんですぐ教えなかった。だからお前はあの時、あのイノセンスがハートである可能性を否定したんだろ」
過去に一度、ティキは雪の父親のイノセンスが、自分達が探し求めているハートではないかと疑ったことがある。
しかしワイズリーは即座にそれを否定した。
理由は最後まで告げなかったが、何故ハートではないと言い切れたのか、これではっきりした。
「あれがハートなら、雪の体はとっくに焼き尽くされて壊れてる。首枷にして毎度娘の身を焼いてんだ。ノアの覚醒ができていない今の雪じゃ、数分と保たない」
「…然様。御主の言う通りだのう」
だから雪の父親のイノセンスが、ハートであるはずがない。
そんな重要なイノセンスを、個のノアを縛る為に教団も使用したりはしないだろう。
あれは捨て駒だ。
そして、雪自身もまた。