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My important place【D.Gray-man】

第48章 フェイク・ラバー



「く…!」



綿だけ詰めた人形の足のように、骨を折られたトクサの右足がぶらりと不格好に揺れる。
辛うじて左足を軸に立ち回ることはできるが、その足も奪われてしまえば命を奪われたも同然となる。

迷う暇などなかった。

ぐにゃりと歪んだトクサの左腕が、奇っ怪なものへと変貌する。
床に掌を付け、左手首の中で浮かぶ丸い光が一層輝きを増せば、そこから波紋状に黒い波が広がった。



「なんだい、これ?」

「呑まれてしまえ」



真っ黒な波が浸る床が、水面のように揺れる。
途端に、ずぷんと落ちたシェリルの足が、黒い床へと呑み込まれた。
まるで底無し沼のように、シェリルと雪の体を呑み込んでいく。



「貴女も暫くそこで埋まってなさい、月城。後で引き摺り出してあげますから」

「なんだかよくわからないけど…その腕、邪魔だね」



奇妙な現象は、トクサの奇っ怪な左腕を源としている。
排除すべきはそれだと見破ったシェリルが片手を払えば、どぱりと足元の黒い波が弾け跳んだ。

今まで立ち位置を変えなかったシェリルが、初めて行動を起こした。
地を蹴り迫る姿に、トクサもまた迎え撃つように左手の闇のような穴を向ける。
AKUMAの悲鳴をも残さず吸い取る、ブラックホールのような能力を持つ穴だ。



「それ、イノセンスじゃないだろう?」



しかし直前で足を止めたシェリルの体は、吸い込まれることなく。
自らその左手に触れた。



「感じる気配にイノセンス独特の嫌さがない」

「だったらなんだと言うのですッ」



丸太のように振るわれる左手の一打を華麗に躱し、にんまりと笑う。



「つまり、僕らノアにとって恐れるものじゃないってことさ」



くん、と再び引かれる感覚。
今度は足首ではなくシェリルへと向けた左腕から。



「今度はその腕だ」



骨を圧し折る嫌な音は響かなかった。
代わりに響いたのは、ばつんと大きな断音が一つ。

宙を舞った何かが、大きく弧を描いて雪の目の前にごとんと落下した。
バウンドして転がるそれは、トクサの左腕であったもの。
奇っ怪な形を残したまま、床に赤い血の線を引きながら雪の足に当たり止まった。

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