My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「右腕一本くらいで、何を仰いますやら。お陰様で伯爵から大変貴重な情報を頂きましてね。大聖堂から発行する光を追い、貴方を見つけたのですよ」
「ふーん、成程。つまりは僕らを裏切った、と」
「! それは脅されて仕方なく…!」
「仕方なく情報を売った、と?君の忠誠心はそんな軽いものだったんだねぇ」
笑いかけるシェリルの声は裏腹に冷たい。
動揺混じりに一歩後退るリッチモンドへと、ぱちりと指を鳴らす。
途端にリッチモンドの体はぴしりと硬直し固まった。
「そんな忠誠心のないブローカーなんて要らないよ。邪魔なだけだ」
「わ、私は長年貴方達の為に───!」
ボキン、と嫌な音がした。
「あギャ…!」
「汚い悲鳴だね、全く……長年、何?年月なんて関係ないよ。何かに背くのなら、それ相応の覚悟をしなくちゃね」
折れた右腕を除く手足全てを在らぬ方向へ圧し折られたリッチモンドの体が、どちゃりと床に伏せ落ちる。
醜いものでも見るような目で一蹴すると、既にシェリルの興味の対象から外れていた。
「脅すのならこれくらいしなくちゃ。甘さは不要なんだろう?」
「貴方、馬鹿ですか。足まで奪ったら連れて行けないでしょう」
「そんなこと僕には朝飯前さ。君達ひ弱なエクソシストとは違うんだよ」
「…左様で(対象を自在に操れる能力…念動力か、ノイズ・マリのような能力か…どちらだ)」
「やぁ、おかえりラースラ」
「………」
俯いたままシェリルの傍らに寄り添う雪の姿に、トクサは素早く思考を回した。
現時点でアレン達の加勢は望めない。
雪を捕われている分、一人で能力も未知なるノアを相手にするのは分が悪い。
(戦いは避けて、どうにか月城を取り返さねば…ノアに奪われては終いだ)
す、とシェリルの片手がトクサに向けられる。
反射的に飛び退きながら目の前に札で壁を作れば、ばちりと何かが衝突したような摩擦音が響いた。
「っ(念動力ではなく物理的な力か…!?)」
「考え事をしながらこの僕と戦えるとでも?」
くん、とズボンの裾を引っ張られるような、そんな微かな感覚。
見下ろすトクサの目に映ったのは、足首を見えない糸で縛られているような目の錯覚。
「捕まえた♪」
ボキン、と嫌な音がした。