My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
ペンキのように迸る赤い血飛沫。
生々しい人肌の触感。
何度も戦闘中に見てきた奇っ怪な左腕は、見間違えるはずもない。
「っ…」
ぼやけた視界の中で、雪は確かにそれがトクサのものだと理解した。
虚ろな目が、揺れる。
「さて、腕を一本、足を一本。残るはもう片方の腕と足だけだ」
「ぐ…ぅ…」
「どうせだから残りも全部綺麗に排除して、芋虫みたいにしてあげようか。無様に地べたを這う君を見るのもまた一興だろうね」
「誰がノアなんかに頭を下げるものか…ッ」
「おや、威勢だけは一人前だ」
血が吹き出る腕を押さえながら殺気を宿した目で睨み付けてくるトクサに、シェリルは愉快そうに笑った。
反応があってこそ痛ぶり甲斐はあるのだ。
「その姿勢を忘れちゃあいけないよ」
じゃないと楽しくないからね、と添えるように甘く囁く。
ぱちりとシェリルが指を鳴らせば、トクサの残る手足を見えない何かが軽く締め付けた。
そのまま左腕と同じ末路を辿るのだろう、失う覚悟にトクサは咄嗟に歯を食い縛った。
「……め、て」
か細い声だった。
「ゃ…め…て…っ」
突っ変えながらも必死に喉の奥から絞り出しているような、小さな小さな主張。
それでもシェリルが聞き損なわなかったのは、それこそ待ち望んでいた声だったからだ。
「嗚呼…喋られるようになったのかい?」
嬉々として振り返ったシェリルの目に、どうにかその場に佇む雪の姿が映る。
ふらつきながらも、朧気な瞳はシェリルを捉えていた。
「嬉しいねぇ。君と話したかったんだよ、ラースラ」
「…め……も…やめ、て」
「やめて?何をだい?…彼のことかな?」
果たして正確な状況判断ができているのか、シェリルにはわかり兼ねたがそんなことは問題ではない。
大事なのは、ラースラである彼女と言葉で意思疎通ができるということ。
「家族の願いなら、聞いてあげないとねぇ……そうだ!」
ぽんと手を叩いて、名案だと言わんばかりにシェリルは顔を輝かせた。