My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「悪趣味とは失礼な。僕は無意味なことなんてしないよ」
「なんとでも。彼女は教団のものです、返して貰いますよ」
「もの、か…ふふ。だそうだよ、ラースラ」
ぴくりと雪の指先が揺れる。
シェリルに呼ばれた途端、全く反応を示さなかった体が動いた。
上がる顔に、虚ろな目がトクサを捉える。
思いがけない雪の行動にトクサが目を見張る中、ロープに縛られたままの手首を突き出し瞬時に伸びた指先が首を狙った。
「な───」
見開くトクサの目に映る、急所を狙う雪の一打。
ぱっと赤い血が、トクサの首から舞い散った。
「っ何を…!」
「ふふ。何を?ラースラは僕らの家族だよ。君らのものになる訳がないじゃあないか」
ゆるりと両腕を広げるシェリルの下へ、ふらりと覚束無い雪の足が向く。
壊れた操り人形のように進む様は、明らかに不審だった。
「っ…やはり悪趣味ですね…」
間一髪雪の攻撃は避けたものの、彼女の体は放してしまった。
首から滴る血を押さえながら、トクサの眉間に皺が寄る。
虚ろな雪の表情からして、自らの意志で動いているようには思えない。
誘われるように向かうシェリルの手によって操られているのだろう。
「それでもう一度聞くけど、君は誰だい?新たなエクソシストかな?」
「だったらなんだと言うのです」
「ふむ。なら易々と見逃す訳にはいかないな…どうして此処がバレたのか不思議だけど」
「洗い浚い話してくれた者がいましてね」
トクサの視線が、大聖堂の入口付近へと映る。
新たな人の気配にシェリルもまた目で辿れば、其処には見知った顔がいた。
「わ…私は、脅されたんだ…」
弱々しい声で弁解しているのは、右腕を庇うようにして壁に寄り掛かっているリッチモンド。
綺麗に整えられていたはずのシルバーブロンドは乱れ、額には脂汗がじっとりと浮かんでいる。
白い肌を更に蒼白く変えているところ、言葉通りの尋問を受けたのだろう。