My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「薄ら寒い」
冷たい声だった。
雪を囲う自身の腕に何かが張り付いているのを、シェリルの目が捉える。
バチンッ!
びっしりと腕に張り付いていたのは、金色に輝く札。
しかしなんなのか悟る前に、一斉に弾けたそれに体が吹き飛ばされた。
ただし衝撃で吹き飛んだのはシェリルの体だけで、ぷつりと糸が切れたように倒れる雪の体を一つの腕が支える。
「貴方の言葉にこそ何処にも信憑性が見当たりませんね。全てにおいて薄ら寒いです」
雪の体を支えたまま、観客席へと突っ込んだシェリルに冷ややかな視線を向ける。
其処に立っていたのは、鴉の札を手にしたトクサだった。
「少し目を離した隙に、とんだ痴女になりましたね貴女」
「………」
「月城?」
「やれやれ、全く!折角仕立てたスーツが!」
壊れた椅子の中から身を起こしたシェリルが、乱れた髪を手直ししながら声を上げる。
札で焼けたスーツの袖はボロボロになくなっていた。
ピリピリと生まれる殺気に、トクサも雪への呼びかけを止めざる終えず。
互いの切れ目の視線が交わる。
「誰だい?君」
「…月城に何をしたんです」
「おや、無視とは。言葉尻が丁寧なだけで、マナーはなっていないね」
「ご自分もでしょう。随分と偏った嗜好をお持ちのようだ」
「彼女のその格好のこと?中々似合ってるだろう?」
「縛りが甘いです」
「なんと」
よもや縛りの甘さを指摘されるとは。
想定外の返しに、シェリルは面白そうに目を細めて笑った。
「私なら徹底的に拘束して抗う余地は与えません。そこに敢えて甘さを作り与える辺り、悪趣味ですね」
反応を示さない雪の体を改めて抱きかかえる。
虚ろな彼女の表情を見れば、明らかに何かされたことはわかる。
何処となく同族嫌悪なものを、トクサは目の前の男から感じた。
相手を精神的に追い詰めることに、快楽でも感じるのだろう。
先程耳にした下品な言葉責めが、良い証拠だ。