My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「これでわかっただろう?神田ユウが彼女を見つけ出してしまえば、君は用済みだ。そうでなくても他者とのあやふやな想いの繋がりなんて、いつ切れるかもわからない。君が飽くのが先か、彼が飽くのが先か。ただそれだけのことさ」
「………」
「そうなれば君の残る道は、食い潰されるだけの道。神田ユウという繋がりを失くせば、教団が君に期待することは何もない。ノアの力を利用されるだけ利用されて、ガタがくればお払い箱だ。家畜と同じなのさ」
それならば、と加えて。
俯く雪の頭を、シェリルの手が優しく撫ぜた。
「君が君らしくいられる場所は何処にあるのか。…もうわかっているだろう?ノアの"記憶"で繋がっている僕らの絆は確かなものだ。想いなんて信憑性のないものとは違う」
先程とは打って変わり、優しい声が雪を包む。
「僕らは決して君を見捨てはしないよ。同じ眼で物を見て、同じ時を刻んで、同じ歩幅で歩くことができる。"家族"だからね」
微かに雪から反応が伝わる。
虚ろな瞳はシェリルを映しはしなかったが、それでも充分だった。
声はちゃんと雪へと届いている。
その意味も彼女は理解している。
ノアの絆は、頭ではなく心で理解できるもの。
それさえ感じてしまえば、後は容易いものだ。
「だからもう意味のないものに縋るのはおよし。彼が君を通過点とするならば、君もそうしてしまえばいい。この世は弱肉強食だ。食われたくなければ、先に食らうこと」
何処かで聞いた言葉だと雪は思った。
それは昔の自分が自己暗示のように唱えていたものだと悟る前に、嗚呼そうかと漠然と納得する。
所詮この世は弱肉強食。
ノアの力も満足に持たない自分が命を紡いでいられているのは、生かされているからだ。
その身を然るべき時に食われる為に、その時をただ待つ為だけに生かされている。
そんなものただの家畜だ。
「哀れで愛しい我が同胞よ。さぁ、共に帰ろう」
シェリルの腕が優しく雪の体を囲う。
抱き寄せられた腕の中は温かいものであるのに、何故か寒さを感じた。
自分の体温が奪われていくような、そんな降下感。
それでも見えない何かで縛られた体は一歩も動くことなく、大人しく腕の中に収まった。