My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
(ききたく、ない)
霞む思考でも、頭の隅で拒絶が生まれる。
足場を崩され、逃げ場を失い、刃で突かれた心が食い千切られる。
それでも尚、男は傷口をこじ開けようとする。
「これも簡単なことだよ。黒の教団という、仲間にさえ憎悪を向けられる救えない組織のことを考えれば」
(ききたくない)
「そんな所で独り、戦い続けるのはしんどかったんだろうねぇ。いくら譲れないものを抱えていても、強靭な精神があっても、彼もまた感情を持った人だ。弱さもある」
(ききたくない)
「だから人として当たり前のことをしたんだよ。ほら、何処かの国の胡散臭いテレビドラマの教師も言ってただろう?人という字は、支え合ってできているってさ。あれ、都合の良い解釈だよねぇ」
耳を塞ぎたくとも塞げない。
シェリルの手が顎や頬を撫でる仕草に、ぞわりと嫌悪感が生まれる。
本来ならば薬で感じる体が、心で拒否をした。
「でもそれと同じことなんだよ。独りは辛い。独りはしんどい。だから支え合える者を捜した。簡単には手に入らない、焦がれる想い人の残像を追い続ける為に。手を伸ばせば届く距離にいる君に、一時の安らぎを求めた」
噛み締める唇を、指先でなぞられる。
「わかるかい?」
シェリルの声が、一層クリアに響いた。
「君は彼女の代わりだったのさ」