My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
ワイズリーに伝えられた、神田ユウというエクソシストの情報。
悲劇から生まれ出、そして今も尚その渦中にいる。
然るべき時まで容易に出すなと言われていたが、抗えなかった。
「彼の生い立ちは知っているんだろう?何故セカンドエクソシストとして生まれたのか」
「…っ」
今の今までまともな反応を示さなかった雪が、彼の名を出しただけでこうも動揺し困惑するのだ。
その様がシェリルの欲を煽った。
「教団に向けて多大な憎悪を抱え生まれた彼が、何故頑なにその教団を守り戦い続けるのか。慈善や偽善なんて似合わない青年だろうに。何故だろうねぇ。何故だろう。君はわかるかい?」
泳ぐ視線が地に落ちる。
拙い思考を回しても、答えなど出ないのだろう。
わかりきっていた雪の反応に、それでもシェリルは愉快で堪らなかった。
早急に首を捥ぎ取り息の根を止めたりはしない。
ゆっくりゆっくりと、真綿で徐々に優しく首を絞め上げる。
それがシェリルの好むやり方だった。
「わからないのかい?それとも考えたくないのかい?」
「…っ…」
「拙い頭の君に教えてあげよう。簡単なことだよ」
弱々しくも首を横に振る。
シェリルの言葉を否定しているのか、拒絶しているのか。
どちらでも構わなかった。
「彼には何にも代え難い、大切な女性がいるからさ」
その瞳を絶望に染められるのならば。
「その女性は教団と深く関わりがある。だからその手掛かりを掴む為に、彼は教団で身を粉にして戦い続けている」
「…?」
「勿論、君のことじゃあない。彼は生まれた時から、その女性に心を囚われているからね」
見開く暗い瞳が迷い満ちる。
シェリルを凝視したまま、声にならない声を張り詰める雪の感情は、手に取るように伝わった。
「でもなら疑問が生まれるよねぇ。何故彼は、君に愛の言葉を向けたのか。心を明け渡し、肌を重ね、ノアである君を認めたのか。謎だよねぇ」
ねっとりと問い掛けてくる声が、雪の首を締め上げていく。
物理的には何もされていないはずなのに、息苦しさを覚える。
「君にはわかるかい?」
口角をつり上げ笑いかけてくる男の顔が、更に歪んで見えた。