My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「だから君は特別じゃない。特別なのは神田ユウさ。君は彼の為の駒に過ぎない」
「っ…ぁ…」
ぐっと食い縛る口を開いて、雪は微かに呻いた。
「それでも彼の為になるなら本望とでも?…可哀相だねぇ君は」
何かを伝えようとする様に、シェリルの顔が同情するそれへと変わる。
「若い男女の交際なんて、人生の通過点だ。今は君を満たしてくれるかもしれないけれど、それは永遠じゃない。吊橋効果と同じようなものさ」
可哀相に
「ほら。危機的状況を共に過ごすことで感情が高まり、仲が深まったと勘違いするアレだよ。その場の盛り上がりはあっても、所詮は環境で生まれたものだ。いつかは冷める」
可哀相に
「君達は命の駆け引きをする環境で出会い、長い時を共に過ごし、だから恋をした。悲劇は程良くスパイスとなるからね。その恋はきっと本物だろう。しかし愛ではない」
"可哀相に"
そう優しく諭されているようだった。
哀れむ声が刃物のように、雪の内側へと侵食する。
「セカンドという特異な器で、強靭な精神を持ち、加えてあの秀麗な容姿だ。さぞかし魅力的な青年だろう。君以外にも、男女構わず彼を求める声は後を絶たないはずだよ。しかし君はどうだい、ラースラ。ノアメモリーを持つこと以外に、君を魅せる何かがあるかい?」
応えられなかった。
シェリルの声は薬を投与されてから今までで一番鮮明に届くのに、抗う声が出てこない。
ただのファインダーであった時から、自分は所詮教団の駒だと思っていた。
昔の自分が蘇る。
誰にも期待せず期待されず。
強みになるような、長所などと言えるものなど考えたこともない。
「君の周りに寄ってくる者達は?君だけを求めていたかい?君の隣に神田ユウがいたからではないのかな」
神田を通じて深まったと思っていた、エクソシスト達面々との仲。
その自覚があったからこそ、愕然としてしまった。