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My important place【D.Gray-man】

第48章 フェイク・ラバー



「ほらもっと。しっかり気を保っておいで。怒のノアは誰よりも強い意志がなければね」

「ぁ"、か…っ」

「ほら。ほら。そんなことじゃすぐにイッてしまうよ」



酸欠の頭では思考は回らない。
目の前で笑うノアの顔がぐにゃりと歪む。

目の前に視線は向いているのに、濁った瞳は何も映していない。
そんな雪の様に、シェリルは自身の額に手を当てると落ち着かせるように深く息を吸った。

いけない。
このまま殺してしまっては。
今の雪は単なる人間。
少し捻り千切れば、簡単に死んでしまう。



「ふ、ふ…はは…全く…なんと情けない姿だろうね…弱くてみっともなくて汚らしい」



強く無邪気ながら上品さも残す我が娘ロードとは、まるで正反対。
こんな女のどこに魅力があるのかと疑問も浮かぶが、確かに欲は向けたくなる。



「折角出会えたんだ。僕とも話をしてくれないかなぁ」



深呼吸を繰り返しながらシェリルが指を鳴らすと、雪の首を締めていた何かが緩んだ。



「っは…!げほッ!ぉぇ…ッ」

「ああ、吐かないでくれたまえ。いくら家族でも汚い粗相は好きじゃない」



咳き込む雪から身を退きながら、未だに濁った暗い瞳を見る。
いくらシェリル好みの体質になろうが、意思疎通もできないようであればすぐに飽いてしまう。
こういうものは、反応があるからこそ愉快なのだ。



「なら君の興味のある話題をしよう。女子トークとはそういうものだろう?」



弱々しく呼吸を繰り返す雪に、休む暇など与えない。
見えない何かで縛った体を引き上げたまま、シェリルはさらりと雪の髪を梳いた。
耳にかけて髪を流し、露わになったそこへ口を寄せる。



「神田ユウ」



浅い呼吸音が止まる。



「という者の話なら、興味があるのでは?」



濁った瞳が、微かながらも確かに動いた。
初めて見せた雪の人らしい反応に、にんまりとシェリルの口角が上がる。



「そうだよねぇ。君にとって彼はとても特別な人だからねぇ」



弱々しくも、俯いていた雪の顔が上がる。



「でも残念だ」



爬虫類のように、口角の端を大きく裂けさせるかのように。



「君は特別じゃない」



歪んだ笑みはより一層深まった。

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