My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「僕の義弟はね、君のことをどうやら気に入っているみたいなんだよ」
直に聞いた訳ではない。
しかし愛する者への察知力は何かと高いシェリル。
ティキが幾度も婚約者候補を断ってきた理由を、微かながらに勘付いていた。
家族会議で雪の話が出ると、いつも退屈そうだった彼の表情が消えるようになったのは、いつからだろうか。
ティキの興味は、新しく家族となる雪にある。
だから余所に目移りしないのだ。
「ロードだってそうだ。君を迎え入れたらどんな遊びをするか、いつもあれこれ提案しては僕の話を遮断するし。あのワイズリーも、君の話題でロードやティッキーを僕から取り上げていくし。僕にはその魅力がいまいちわからないんだけどね?」
噂に聞いて映像を見せられただけで、ロードやティキのように夢の中で話したことも、ワイズリーのように彼女の心を覗いたことも、ジャスデビのように実際に接触したこともない。
それでも家族が何かと目をかける月城雪という存在は、シェリルに興味を抱かせた。
「君は一体どんな魅力を持っているんだい?僕にも教えてよ」
それはシェリルにすれば好意に近い感情だったかもしれない。
しかし歪な嗜好を持つ彼の好意は、相手にとって喜ばしくないものであることが多い。
唇が触れそうな擦れ擦れの距離で問い掛けるシェリルに、快楽のみにしか反応を示していなかった雪が動いた。
「っ…」
顎を退き、顔を背ける。
それは拒絶とも取れる反応だった。
シェリルの目が丸くなる。
まるで奥深くに宿る自身の欲を、逆撫でされたような感覚だ。
「…はは」
歪む笑み。
両肩に食い込んでいた手が離れる。
なのに急に雪の体は硬直するようにぴしりと固まると、くんっと見えない力で引っ張られ立ち上がった。
「ぁ…は…っ」
「なんとも雄を煽る良い表情をするじゃあないか。下品で知性の欠片もない、売女みたいな表情だ」
冷たい顔で笑うシェリルの指先がくっと曲がれば、ぎしぎしと雪の四肢が軋む。
見えない糸で縛られているかのように、腿と胸と首を何かが締め付けた。
気道を狭められ苦しさで顔が歪む。
なのに体は反応を示す。
それこそ売女にでもされたような気分だ。