My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「びッ…くりしたぁ!何してるの!?ねぇ何したの!」
慌てた形相で両肩を掴み捲し立てるシェリルに、揺さぶられる雪は満足に応えることができない。
眩んだ視界は未だにちかちかと輝き、視力を更に妨げる。
ティキ達の下へ向かおうとしていたシェリルを止めたのは、突然のリヴァプール大聖堂から溢れ出した光だった。
慌てて戻れば、雪の頭上で少規模な太陽のように輝く塊が、突如弾け四方八方外へと飛び散ったのだ。
「ノアの覚醒でもしたのかと思ったよ。でもそんな気配は見られないし…こんな状態で力を発揮できるとも思えないし」
何が原因かはわからないが、ノアの能力ではないだろう。
「でもこれじゃあ迂闊に戻れないな…君を一人にすると、何をするかわからない」
それこそ本当にノアの覚醒でも始まってしまえば、困るのはエクソシスト側だけではない。
「どうしてこうも僕の周りは問題児が多いんだろうね…ジャスデビはいつまで経っても上品さの欠片も身に付けないし、ティッキーはあんなに目を掛けてるのに伴侶探しを嫌がるし…ロードは僕の作ったドレスを着てくれない」
ぶつぶつと文句を言い始めるシェリルの声が、段々と低さと冷たさを増していく。
「新しく家族になる君は、多少は物分りが良いと助かるよ。だからねぇ下手なことはしないでくれないかい?いつも尻拭いをするのは僕なんだ」
「…ぅ…」
ぎり、と両肩を掴むシェリルの爪が、雪の肌に食い込む。
本来ならば痛みを感じるところが、薬の所為で声は悲鳴には変わらない。
頬は上気し、目元は潤み、吐息が溢れる。
そんな雪の様に、シェリルの細い切れ目が鋭さを増した。
「嗚呼。いけないよ。そんな反応。もっと傷付けたくなるじゃあないか」
彼の底に根付く鋭利な欲望が研ぎ澄まされる。
その欲で目の前の柔らかな体をズタズタに裂けたなら、なんと気持ちの良いことだろう。
「いけないよ、いけない。君を傷付けてしまったら、ロードが悲しむ。ティッキーの機嫌も損ねてしまうかもしれない」
何にも興味を持たない、いつも退屈そうな表情をしていた義弟。
そんな彼が、最近表情を変える時があることをシェリルは知っていた。