My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
暗い夜空と相反し、ぽつぽつと街灯や家が明かりを灯す。
その中で一際光り輝いている建物を遠目に見つけ、長い髭を称えた口元が微笑んだ。
「彼女はどうやら"あれ"の使い道を知っておったようじゃな」
人気のない暗い路地に、老人が一人。
「ニャア」
その足元には、使い魔のようにぴたりと寄り添う猫が一匹。
神田達と共にリッチモンド邸にいた、あの縞模様の猫だった。
老人の投げ掛けに応えるようにひと鳴きすると、金色の目はじっと輝く建物を見つめる。
建物内部から強く発光しているところ、老人が授けた道具の仕業だろう。
「………」
「まぁ、その、あれじゃよ。来る途中にちょこちょことのう…光を拝借したまでじゃ」
じっと見上げてくる猫にまるで無言の圧を掛けられているかのように、老人が言い訳を返す。
「彼女の歩む道は、誰より暗闇に満ちておるからのう。"光"を与えねば見失ってしまう」
やがて付け足された言葉に意味を悟ったのか、猫は鋭い視線を老人から外した。
リヴァプール大聖堂の中から溢れていた光が、やがて四方八方に飛び散る。
元の場所へと帰っているのだろう、その中の一つの光が老人の側の街灯へと戻ると、ほんのりと明るくその場を照らした。
「これで元通り、問題無しじゃ」
「…ニウ」
「ほっほ、そう毛を逆撫でるでないよ。綺麗な毛並みをしておるのに」
老人の柔らかい褒め言葉に、毛を逆撫でる代わりにピンと縞模様の尾を伸ばす。
そうして先を進む猫の後を、老人も追う。
その足取りは猫のように靭やかで、驚く程静かなものだった。