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My important place【D.Gray-man】

第48章 フェイク・ラバー



大聖堂の中で仄かに宿る光に照らされた顔。
薬の影響で瞳はとろりと蕩け、上気した頬は赤く色付き、半開きの唇は濡れそぼっている。
そんな様であっても、シェリルはすぐに悟った。

ワイズリーに一度見せてもらったことのある、彼の記憶が映し出した我が同胞。
ノアの"怒"のメモリーを所持する者。

名は、



「ラースラ」



嬉々とも取れる音色で呼ばれた名に、雪は反応を示さなかった。
虚ろな目は途方もなく宙を見つめ、心此処に在らず。
全ては薬の所為だろう、そんな同胞の姿を前にしてもシェリルの口角は大きく歪み笑みを作り上げた。



「まさか…君かい?ラースラ」

「………」

「ティッキーが気付かなかったのは、その薬の所為かな。それにしてもまさか…ははっこんな偶然あるかい?」



愉快で堪らないと言うかのように、声を上げて笑う。
シェリルの頭の中で、突然のエクソシストの奇襲の理由も繋がった。
知らぬ間にAKUMAの巣窟に落ちてしまっていた彼女を、助けに来たのだろう。



「まさかねぇ。まさかだよ。君がAKUMAに喰われなくてよかった。ロードが悲しむ」



細い雪の顎を掴み持ち上げる。
力無くされるがままの雪の顔を角度を変えて見回しながら、やはりそうだとシェリルは確信した。

この女は"怒(ラースラ)"だ。
まだノアの覚醒に至っていないが為か、こんなにも身近にいて全く気付かなかった。



「仲間の加勢をしてエクソシストを討つ気でいたけど、予定変更だね」



今、一にも二にも求めているものは、敵であるエクソシストの死でも、裏切り者の14番目のノアでもない。
新たな同胞である彼女を手にすること。



「この朗報は彼らに伝えてあげないと。それから皆で仲良くGo homeだ」



ホーム、という言葉に微かに雪の視線が揺らぐ。
その変化に気付かないまま、シェリルは雪から手を放した。



「君は少しの間待っていてくれたまえ。すぐ戻るよ」



幾何学模様の広い床を、コツコツと革靴が鳴らす。
遠ざかる足音を朧気に拾いながら、雪は無力な体を横たえた。

薬でふやけた頭は思い通りには回ってくれない。
しかし暖房の効いていない大聖堂の冷たい空気は、雪の体の熱を僅かながらに冷ました。

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