My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
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「此処なら安全かな?」
コツリと、幾何学模様の描かれた床を革靴が鳴らす。
人気の全くない広い空間を見渡しながら、シェリルは抱いていた布を目の前の台に下ろした。
「あの館でエクソシストが暴れても、此処まで被害は出ないだろう」
リッチモンド邸より更に高い天井の下、布を捲れば現れたのは、薄いベビードールとショーツ姿の雪。
彼女を連れてシェリルが訪れたのは、リッチモンド邸とは相反し静かな場所だった。
建物の三階建てはありそうな縦長の輝かしいステンドグラスが並ぶ、丁寧な装飾が入った壁。
ゴシック様式の高いアーチに、一万本近くパイプが張り巡らされた巨大なオルガンが中央に聳え立つ。
沢山の長椅子の観覧席が並ぶその面積は、リッチモンド邸を凌ぐ。
「うん。やはり此処は何度訪れても美しさに圧倒される。美の傑作だね」
うっとりと呟くシェリルの声が、人気のない広い空間にしんと響く。
此処は国内最大規模を誇る国教教会寺院、リヴァプール大聖堂である。
「君もそう思わないかい?」
「っ…ふ…」
「ああ、薬漬けにされているんだったね。可哀想に」
同情する言葉は発しているものの、そこに心底憐れむ感情は見受けられない。
パイプオルガンの精巧なる大きな長椅子の上に雪の体を横たえたまま、ぽふりと肩を軽く叩く。
その些細な行為だけで体を震わせ反応を示す雪に、気の毒そうにシェリルは溜息をついた。
「ワイズリーの所に連れていく前に、その体をどうにかしないとね…色々と汚らしい」
薬のことではなく、AKUMAの触手に誑かされた跡に対する嫌悪感。
潔癖とも言えるシェリルが嫌々ながらも雪を此処まで運べたのは、ティキの頼みであったことが大きい。
「それまでその体は拘束させてもらうよ。下手に暴れられても困るし、何より僕の服が汚れる」
「っく…ぅ…」
「おや?もしかして、その拘束にも感じているのかい?」
あられもなく素肌は露出したまま、上から体を拘束する真っ赤なロープが異様に目立つ。
両手首と両膝、そして両足首を固定するように縛られ、身を捩ろうにも充分な動きはできない。
それでもぴくりぴくりと肌が粟立つのは、そんな拘束の刺激にも体は応えてしまうからだ。