My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に
俺の目にしか映らない幻の花。
それに囲まれて、どう蓮華の茎が美味いか話す月城の姿。
それはどう見たってあの人とは重ならず、マヌケにも見える姿に思わず吹き出した。
おかしくて、同時に不思議と安堵した。
月城は月城。あの人じゃない。
俺の記憶が焦がれて止まないのはあの人でも、俺のこいつに向いた気持ちは、こいつがあの人に似通ってるからじゃない。
月城だからだと、きっとそう思えたからだ。
「神田? 何…じっと見て」
無言で見ていれば、月城の怪訝な目がもう一度問い掛けてくる。
居心地悪そうに、というより気恥ずかしそうに。
こいつは俺と目が合うと、顔を青くしたり視線を逸らしたり、今まではそういう反応が多かった。
恥ずかしそうな反応なんてほとんど見たことがない。
だからなのか。無意識に伸びた手が、その頬に触れたのは。
「な…なに?」
指先で触れれば、月城は挙動不審に歩いていた足を止める。
ただ逃げる素振りはなく、寧ろ体は固まった。
触れた頬は柔い。
ふにふにと突けば、じわ、とまるで連動するように赤くなる。
…面白ぇ反応だな。
「昼飯の海苔が顔に付いてんぞ」
「えっ!?」
つい口元が緩みそうになって、すぐに手を離す。
先を歩きながら、さっき一緒に食った昼飯を思い出す。
別に海苔なんて付いてやしない。
自分でも安易な言い訳にしか思えなくて呆れたが、生憎月城にはそう捉えられなかったようだ。
「ま、待って神田…っ」
ごしごしと顔を袖で拭きながら、慌ててついてくる。
はらりと、その横を舞い落ちる淡い花弁。
俺の足元にも、月城の周りにも。
俺にしか見えない蓮華は、互いを囲うように咲き誇っている。
「取れたっ?」
「ああ。マヌケ面がよく見える」
「んなっ」
ただ、こいつの反応にいちいち目がいく所為か。月城が傍にいると、不思議とその花は気にならなかった。