My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に
「久しぶりだね、アレンとの任務。ミランダさんなんて、神田は初めてじゃない?」
「モヤシだけでも面倒臭ぇのに、足手纏いが増えるだけだ」
「またそういうこと言う…アレンの前で言ったら駄目だよ。喧嘩になるから」
呆れた顔で見上げながら、月城が隣をついて歩く。
この廊下の辿り着く先はコムイの司令室だ。
休み明け早々、俺と月城は同じ任務に宛がわれた。
こいつとだけの任務ならまだしも、モヤシと貧血女も一緒だとか面倒臭ぇ。
「特にアレンは今、大変なんだから」
どこか暗い顔で、月城がぽつりと付け足す。
その言葉が意味成すのは、恐らくクロス元帥の死か。
下らないゾンビ事件の後なんとか引越しを終え、新しい教団本部が設立された。
其処で最初に起きた事件が、何者かによるクロス・マリアンの抹殺。
死体を見たという目撃者は警護班の一人だけで、それも一瞬。目を離した隙に、死体は何処かへ消えたという。
元帥の生死さえわからない謎の事件。
あの元帥はモヤシと密接な師弟関係にあったらしいから、月城はそんなモヤシの心を気遣ってるんだろう。
ひらりともう一枚薄く色付いた花弁が、月城の肩に舞い落ちる。
つい視線で追ってみても、月城は花弁には気付かないまま歩幅を合わせて歩き続けている。
『見てみたいな、一面に咲き誇ってるところ』
新本部引っ越し前に、フロワ・ティエドール元帥に無理矢理連れていかれた花畑。
其処で蓮華の花を前に、そう月城が口にした時は驚いた。
その言葉は朧気な記憶の中のあの人が、確かに口にした言葉だったからだ。
幾重も咲いた蓮華の花に囲まれて、その真ん中であの人は淡く微笑んでいた。
俺の記憶に残る、唯一のあの人のはっきりとした顔。
それと月城が一瞬重なった。
重なった姿に息を呑んで、何も反応できなかった。
あの人に会いたいと思う気持ちが、溢れ出そうになって。
そんな月城から目が離せなかった。
『食べ頃なんだよ。あの茎』
なのに次にこいつの口から出てきたのは、呆れるくらい拍子抜けする言葉。
味付けがどうだこうだ、思い出すように口にする。
その姿に一気に現実に引き戻された。