My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「みっともなく粗相をするのは、舞台の上にしてくれたまえ。まだ早い」
「ふぐ、う、」
「なんだい?ああ、これかい?ボールギャグという物さ。所謂口枷だよ。どうせ話せないんだ、あっても支障はないだろう」
違うと首を振り被ろうにも、力が入らない。
ぐったりと車椅子に凭れたままの雪の髪を結んでいたリボンをするりと解くと、リッチモンドは再びグリップを握った。
「さあ、主役は少し遅れて登場するものだ。ゆっくり行こう」
ゆっくりと車椅子を押し進められ、暗い道を進む。
備に周りを観察することもできない。
ぼやける視界の中、雪は体が斜めに傾くのを感じた。
スロープのようなものを下っているのだろうか、視界が更に暗くなる。
「しかし君がいるとなると、他の教団の者も此処にいるのかな?」
「………」
「見たところ、来客に扮して紛れ込んでいたようだが…なに、名簿を調べればすぐにわかることだ。表舞台は普通の舞踏会、今日はそのまま帰って貰って後日呼び出すことにするよ。君を餌にしてね」
「ぅ…っ」
「心配しなくても、いずれ彼らにも後を追わせるさ。大したことじゃないだろう?任務先の些細な不注意で命を落とすことなど。君達が追っているものを考えたら」
ぼやける思考を必死に回す。
確かにリッチモンドの言う通り、教団で働く者は常に死と隣り合わせにある。
特にファインダーが任務先で命を落とすことは珍しいことでもない。
しかし何故そうも教団のことに詳しいのか。
以前謁見した時は、黒の教団の名を出しても興味一つ示さなかったものを。
「そうそう。此処へ辿り着いたとなれば、太った婦人にも会ったんだろうが、生憎彼女はイノセンスではない。だから断ったと言うのに…此処に君達が望むものはない」
暗い視界が更に重く塗り尽くされていく。
リッチモンドの顔もわからない程の暗闇の中を、それでも彼は迷う素振りなく進んだ。
「残念だろうが、だが気を落とすことはない。すぐに君の頭は別のことでいっぱいになる」
「っ…?」
「体に別の変化は感じないかな?皮膚の内側を熱が燻るような、そんな感覚が」
ぴたりと車椅子の車輪が止まる。
身を屈めたリッチモンドの声が、耳のすぐ傍でする。
ねとりと絡むような声に、首の後ろが寒くなった。