My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「ふ、っ?」
背後から伸びた手が、そわりと雪の太腿を撫でる。
意識していないと感じない程の、ほんの些細な刺激だ。
なのに言い様のない感覚を覚え、びくりと肌が震えた。
「ふむ。兆候はあるようだね」
先程太腿を拭われた時は、何も感じなかったはず。
しかし肌が過敏になっているような錯覚に陥れば、それは早かった。
「ぅ、く…ふ…っ」
肌の上で微かにベビードールのレースが擦れるだけで、身を捩りたくなる。
しかし筋肉の緩んだ体は、雪の意思には従わない。
なのに本能的なものには肌がひくついてしまうのだ。
「ぅうっう…!」
「そんな嫌そうな声を上げなくても。これは君の為なのだよ」
「っ?」
「痛みさえも快感へと変える、正に魔法のような薬だ。魔法界にはドラッグと同じだと一蹴されたがね…この薬欲しさに大金をはたく成金も大勢いると言うのに。やはりアイツらには物の価値がわからんのだ」
「ぅ…!」
段々と低くなる声に連鎖するかの如く、ギリッとリッチモンドの指が雪の腿を抓る。
痛みを感じるはずであろうものなのに、その刺激にさえも肌は震えた。
体の奥底で感じる疼きに、悪寒が走る。
「…っ、」
「ああ、すまない、つい。しかし痛みはないだろう?これから君が与えられるものは、全て快感となる。正に天にも昇る気持ちで、それこそ魂は召されるのだよ。なんと美しいことかと思わないかね」
つまりこれから与えられるものは、痛みでしかないということ。
リッチモンドは処分すると言ったのだ、それが命を奪うこと以外の何物でもないことは、雪も理解していた。
「勿論、"相手"は余興であることも理解してくれている。きちんと君に女の悦びも与えてくれるだろう」
「!?」
予想外の言葉に目を剥く。
そんな雪の前に回り込むと、リッチモンドは懐から見覚えのある物を取り出した。
「今宵は仮面舞踏会。これを忘れてはいけないね」
それは雪が身に付けていた銀のマスカレードマスク。
丁寧に雪の顔に被せ、見開くその瞳を隠す。
「君は今宵の宴の華だ」
謳うように告げると、リッチモンドもまた金のマスカレードマスクを自ら身に付けた。
「さあ、行こう」