My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「マグル同士から魔力を持つ者が生まれ出るように、魔族同士から全く魔力のないただの人間が生まれ出ることもある。それが"スクイブ"と呼ばれる劣化した人種だ」
「それがなん───ゲホッ!」
「ああ、あまり無理して喋らないことだよ。声帯は機能しなくなり始めているだろうから」
「っ…」
「それが私なのだよ」
(……え?)
さらりと告げられた衝撃的な事実に、一瞬気が遅れた。
咳き込む喉の痛みも忘れて、雪はただただ真上にあるリッチモンドの顔を凝視した。
「私はスクイブなのさ」
キィ、キィ、と車椅子の歯車だけが浮かんだ沈黙の空間に響き渡る。
「………」
「そんなに驚くことかね?世界規模で見ればスクイブなど多数存在する。…魔法使いやマグルに比べれば少数だと思うがね」
魔法使いとマグル、と呟くリッチモンドの声には、皮肉を込めた感情が込められているようにも聞こえた。
「希少価値がある者は優遇されるが、それと真逆であれば少数の劣化人種など嘲嗤うだけのネタだ。君にはわかるかね?ただ生まれただけで存在を否定され、差別されることがどんなに耐え難い屈辱か」
「………」
「魔力があるというだけで、人を貶める目でしか見ない。だから私は魔法使いというものが大嫌いでね」
ようやくそこで雪は真実を悟った。
絵画を独特の感性で愛するリッチモンドは、その愛を太った婦人にも向けているのだろうと思っていた。
しかし真逆だったのだ。
憎しみ、恨み、憎悪、そんな感情しか向けられないからこそ、その手で婦人を拐った。
負の感情こそが愛だと語っていたリッチモンドの言葉が、脳裏に思い起こされる。
「同じに、自らの立場を理解せずただ息を吸い吐くだけの愚鈍な生き物と化しているマグルも嫌いなんだよ」
だから、と歌うように続けて。
「私は絵画を愛するのさ。生きた肉の塊には興味がない」
そう告げるリッチモンドの表情は、愛情さえ感じられるようなものだった。
檻の部屋を出ると、雪がやって来た道とは別の道を歩んだ。
迷路のように入り組んだ其処は、段幕の道もあれば壁に阻まれた小道も存在する。
その小道を進んだ先に、目的地はあった。