My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「お前達はショーの準備をしろ」
「ではその女も…」
「いや、この女の下調べは私がする。客はお待ちかねだ、急げ」
「はっ」
「オラ出ろ!出番だぞ!」
女性同様、檻の中にいた者達は一人残らず鎖を引かれ引き摺り出される。
乱暴に彼らを外へと連れ出していく男達に、やがてその場に残されたのは雪とオーナーと呼ばれた男だけとなった。
「どうやって潜り込んだのか知らんが、此処のセキュリティもまだまだ甘いな。いやはや、学ばせて貰ったよ」
「っ…」
「まだ私を睨み付けられるだけの気力があるらしい。参ったよ、君には完敗だ。───月城雪」
「…!?」
雪は一度も顔を合わせたことがない男だった。
しかし彼は雪のことを最初から知っていたかのように嗤いかけてくる。
「どうやら私は黒の教団という組織を甘く見ていたようだ。エクソシストでなくても、それなりに腕は立つらしい」
「っな、ぜ…それ…を…」
「何故?君が教えてくれたのだよ。もう忘れたのかい?」
男達を指示していた時とは打って変わり、穏やかな口調で呼び掛けてくる。
気品はありながらも、どこか引っ掛かる物言い。
「体だけでなく頭も柔軟にしたまえ」
穏やかな口調で微笑みかけてくる男をどうにか睨み付けていた雪の視界が、更に大きくぐにゃりと歪んだ。
男の顔が大きく歪み変形する。
「っ?」
「ああ、そろそろ"時間"か」
しかしそれは打たれた薬の所為ではなかった。
男の口元が歪めば、先程まで聞こえていた野太い声が別の声帯へと変わっていくのだ。
歪んでいたのは雪の視界ではない。
男の顔自体が、ゴムのように伸び縮みしていた。
「な…に…」
長い黒髪の縮れ毛が、忽ちに短く輝かしいシルバーブロンドへと変化する。
浅黒い肌は真っ白な肌へ、黒い瞳はアルビノのように薄いブルーへ。
顔の骨格さえもぐにゃぐにゃと変えていく様には雪も息を呑んだ。
やがてその場に姿を現したのは、よく知る人物の顔。
「リ…チ、モン…ド…?」
「やあ」
オールバックの髪を撫で付けながら穏やかに笑い掛けてくるのは、つい先程大広間で沢山の貴族を相手にしていた屋敷の主。
ウィリアム・リッチモンド伯爵。