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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



(───暗いな…)



通り抜けた扉の先は、薄暗い所だった。
大きな段幕が幾つも垂れ下がり、視界を遮り狭くする。
しかし細長い道を進めば人の気配は感じ取れた。
中に入っていった者達を見たのだから当然だろう、気を引き締めて慎重に雪は足を進めた。

人の気配は感じる。
しかし声は聞こえない。
目線を下げれば、段幕と床の僅かな隙間に明かりの線が見える。
恐らく段幕を挟んだ向こう側には、光を灯した空間があるのだろう。

段幕に手を掛ければ重量はあったが、持ち上げられなくもない。
雪は静かに床に伏せると、僅かに目で確認できる程の隙間を作り目を凝らした。



「っ(何、これ)」



其処には確かに淡い照明を保った広い空間があった。
洒落た作りの丸テーブルが幾つも並び、同じに洒落た装飾の椅子に座っている貴族達が見受けられる。
表の舞踏会と同じにマスカレードマスクをした彼らの顔は、わからない。
テーブルにはワイングラスだけが置かれ、そのどれもに真っ赤な血のような液体が並々と注がれていた。

人の気配はあったのだ、いても可笑しくはない。
しかし雪が息を呑んだのは、その人数の多さだった。
優に三十人は越える人々が一つの空間でワインを口にしている。
なのにざわめきは一つもない。
不気味な程に静まり返った様は、異様に満ちていた。



(この人達がさっきの男が言っていた"客"?)



よくよく観察すれば、照明が淡い理由にも気付いた。
空間の端には大きなステージのようなセットが作られている。
其処で何か催されるものを見る為の、丸テーブルは観客席なのだろう。
太った婦人は参加者と言っていた。
それは貴族である彼らのことを示していたに違いない。



(表とは別の宴でもするわけ?)



貴族のルールなど雪は知らないが、宴の一つだと思えば納得もできる。
ただしどうにも胡散臭い空気は拭えなかった。



ジャラ…



「!」



静かに段幕を締め切った時、雪の耳は微かな物音を拾い上げた。
音は貴族達がいる空間とは別に、段幕の重なる奥から届いたような気がした。
再び慎重に足を進める。
感じていた数十人の人の気配が薄れてきた頃、それは雪の目の前に現れた。



「…此処にも」



もう一つの扉だ。

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