My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
(音は確か、此処から…?)
婦人の扉とは違い、極普通の人が作り上げた扉。
取っ手を握れば、鍵などは掛かっていなかった。
ゆっくりと慎重に開ければ、ギィ、と微かに軋む。
中は段幕の道より更に暗い空間だった。
明かりのようなものは一切ない。
しかし広さはあるらしい。
扉は開けたまま、外から差し込む僅かな明かりを頼りに進む。
ジャラ…
音がした。
聞いたことのあるような音だ。
鉄が擦れ立つ音。
その音がなんなのか、解答を導き出す前に答えは目の前に現れた。
「…何…これ…」
恐る恐る手を伸ばす。
かつん、と雪の指先が触れたのは固い鉄の棒。
幾つも縦に並んだそれは、鉄格子と呼べるもの。
その奥には幾つもの人影があった。
みずぼらしい雑巾のような布を身に纏った、男女が複数。
その細い手足には重い枷のようなものが見える。
そこから垂れ下がった鎖が、僅かな音を立てていたらしい。
年齢ははっきりとはわからないが、子供から大人まで様々な人間が其処にいた。
一目で言うなれば、捕虜のような扱いを受けている者達のようだ。
「ぁ…あの、」
恐る恐る声を掛ける。
すると壁に凭れ座り込んでいた幾人かが、ゆっくりと顔を上げた。
声は聞こえている。
意識はあるのだろう。
虚ろな目が幾つも雪へと向けられた。
みずぼらしい姿をしていたが、皆髪や肌は不思議と綺麗に整えられていた。
「貴方達は一体…っこれは、何?」
「………」
「何処から来たの?此処に貴方達を入れたのは誰っ?」
「………」
問い掛けるも、返答はない。
皆一様に呆けたような顔で雪を見ているだけだ。
(っ…違う。私を見ていない。声に反応しただけだ)
視線は向けられているが、そこに意思は感じられない。
反射的に反応を示しただけなのだろう。
人のようで人であらず。
彼らは一体何者なのか。
「…ぁ…」
ごとり、と近くで音がした。
「ひ…ひと…?」
「!」
鉄格子に凭れていた人影が、重い足枷を引き摺りながら、ゆらりと立ち上がる。
雪と然程変わらない年齢に見えるその女性は、確かに理解できる言葉を発した。