My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「なんだっけ…すとぅるとぅ…?えーっと…」
「聞こえたでしょうっ?今のが合言葉よッ」
「待って婦人、今話しかけないで。思い出してるから」
「まぁ!聴き取れなかったの!?その耳はお飾りかしら!?」
「だから黙っててって!ええと…っ」
考え事に集中すれば、ぷるぷると体を支えている両手足が震えてしまう。
そのままずり落ちてしまおうかとも思った瞬間、カツンと新たな足音は現れた。
「全く、手間取ったな」
足早に現れたのは、使用人と同じ燕尾服を身に纏った男だった。
もじゃもじゃの黒く長い髪に口元の髭は、一瞬雪の頭にフレッドとジョージの店で出会ったハグリッドを思い起こさせる。
(もしかしてあの人、フレッドとジョージが捜していた…!?)
「"ストゥルトゥス・ウィーキーヌス"!早く開けろっ」
「まぁ!なんて態度なの!」
「いいからさっさとしないか。客はお待ちかねだ」
(客?)
苛立つ口調で話す男は乱暴だが、その身振りは高貴な者を思わせる。
使用人と言えど、貴族の出なのかもしれない。
悪態を突きながらも魔法界の法則には逆らえないのだろう、ぱたりと開く婦人の扉の中に、男もまた急ぎ足に消えていく。
開いた扉は一瞬。
再び閉じられるそこに、雪は素早くその場に降り立った。
苛立つ男の声で再確認は出来た。
「"ストゥルトゥス・ウィーキーヌス"っ」
忘れないうちにと早口で合言葉を発せれば、再びぱたりと扉が開く。
「行くの?」
「うん。さっきの男は見過ごせない。フレッドとジョージが来たら説明をお願いね」
「気を付けて。中にあるのはきっとおぞましいものよ」
「大丈夫、すぐ戻るから」
四角く切り取られたような穴の中に足を掛ける。
得体は知れないが、相手が人間であれば雪の腕で倒すことができる。
元より現状把握のみで、暴れるつもりはない。
「戻りの合言葉は必要?」
「いいえ。手で押してくれれば自動で開くわ」
「わかった」
そわそわと右往左往する婦人に、安心させるように笑いかけて。
雪は暗い穴の奥へ、するりと吸い込まれるように消えていった。