My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「とにかく、貴女とは違う眼をしていたわ。あんなことに関わっている者は皆、あんな眼をしているのよきっと」
「あんなことって?」
「………」
「OK、答えられないんだね」
言いたくても言えないのだろう。
それが魔法の類なのか雪には計り兼ねたが、入口の門番として置くなら婦人のような絵画は最適だ。
「なんであれ、ティムに二人を連れてきて貰えば───」
コツ、
「!」
足音がした。
高いヒールでベルベットの絨毯を鳴らすような、そんな音。
双子の足音かとも思ったが、フレッドとジョージなら足音は複数するはず。
コツ、コツ、と静寂に鳴る足音は一つしか確認できない。
言葉を呑み込んだ雪は人の気配を感じ取った。
確かに、誰かがこの細い通路を歩いてきている。
それがもしリッチモンド側の人間ならば。
(しまった、此処じゃ鉢合わせてしまう…!)
隠れる場所など何処にもない。
額縁の中でおろおろと慌てる婦人を視界の隅に、雪は息を呑んだ。
コツ、コツ、
足音は、すぐそこだ。
「?…おや」
薄暗い光に照らされた影が、細い通路の床に伸びる。
しゃんと背筋を伸ばしワインを片手に微笑む婦人の前に、現れたのは一人の貴族男性。
婦人の絵画をマスカレードマスクの下の目が捉える。
そうして男は軽く首を捻った。
人の声が僅かにしたような気がしたが、目の前には絵画以外何もない。
「気の所為か」
やがて顎を擦り頷くと、男はコツリとヒール付きのブーツを絵画の前で止めた。
長いシルクハットを脱いで脇に抱えると、こほんと咳払い一つ。
「"ストゥルトゥス・ウィーキーヌス"」
その口から零れ落ちたのは、英語ではない他国の言語。
しかしその単語を聞いた途端、目の前の婦人の絵画が扉のようにぱたりと開いた。
四角い絵画の入口を潜って中へと消えていく男の姿を、一心に見つめる者が一人。
(あれが合言葉…!)
それは男のすぐ真上。
狭い通路の天井で両手と両足を壁に押し当て、突っ張り棒のようにその力で体を宙に支えている雪だった。
咄嗟に思い付いた身の隠し方は成功したが、肝心の合言葉は鳴れない言語でよく聞き取れなかった。