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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



「自分の欲望に忠実で、躊躇いがないの。欲しいものは力尽くでも手に入れようとする。だから私もこんな目に…ああ!美人って罪ね!」

「…はい?」

「あの人、私をいつもいやらしい目で見てくるのよ…!目が合っただけで裸にされたような気分になるの!」

「…はぁ」

「まぁ!何その顔は!信じていないのね!?」

「いえ、信じてますけど…」



おどろおどろしい絵画にもうっとりとした視線を投げ掛けていたリッチモンドを見ていたからこそ、首は縦に振れた。
振れはしたが、どうにも肩の力がガクリと抜けてしまう。
それは目の前で存外悪くない顔をしている婦人の所為だろう。



(まぁこれでリッチモンド伯爵が黒なのはハッキリした。やっぱり動く絵画のこと、わかっててシラを切ったんだ)



笑顔でイヤイヤと首を横に振り続ける婦人を余所に、雪は目の前の絵画を今一度見直した。
遠近法で描かれたキャンバス内は奥に道があるようにも見えるが、雪が気にしたのはその向こう側。



「…婦人」

「何かしら」

「貴女の後ろには何があるの?」



雪の問いに、ぴたりと婦人の動きが止まる。
合言葉を言えば開かれる扉が、此処にはある。
恐らく先に踏み込んだ貴族の男女二人組も、其処へと入って行ったのだろう。



「…言えないわ。私は定められた扉を守る者。扉の中のことも合言葉も他言無用はできないの」



先程の感情の昂りが嘘のように、声を静めた婦人は強張った表情で首を横に振った。



「フレッドとジョージなら合言葉を知ってる?」

「いいえ。此処で新しく定めた合言葉だから、此処の参加者しか知らない」

(参加者?)



恐らくそれを問い掛けても、婦人が答えることはできないのだろう。
じっと額縁の周りを観察した後、雪は明かりの傍で様子を伺っていたティムキャンピーへと目を向けた。
ティム、と呼べば大人しく手の甲へと飛び移ってくる。



「とにかく婦人を助け出さないと。縛り付けてる魔法を解けば、この中も調べられる。ティム、フレッドとジョージの変装姿は憶えてるよね?」

「ガゥ」

「よし。急いで二人を捜して此処まで案内してくれる?それまで私が此処を見張ってるから」



こくんと頷くと、忠実なゴーレムはすぐさま細い通路の出入口へと飛んで消えていった。

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