My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「何よ!その名を出せば私が怖がると思って!?いやらしい人間ね!」
「そんなつもりは…っ知ってるかどうか知りたいだけなのっ」
恐怖を感じる対象ということは、やはり知っているのだろう。
思わず額縁に齧り付くようにして、雪は絵画の中を一心に覗き込んだ。
否、覗き込もうとした。
実際は平坦なキャンバスの中を覗き込むことなどできない。
「そんな意地悪な質問をして、私を苛める気!?やっぱりいやらしい人間だわ!」
「だから変な意図はないんだって!」
「さっさと用事だけ済ませたらどうなの!合言葉は!?」
「本当に話を聞かないな!だから…!……合言葉?」
「そうよ!ほら!」
一体合言葉とは何か。
首を傾げる雪の前に、絵画の隅から顔だけ覗かせた婦人が催促してくる。
「じゃないと扉は開けられないわよ!」
「扉?」
扉とは一体。
そう目で問い掛けてる雪に、婦人は苛立ちを隠せない様子で絵画の隅からふくよかな体を突き出してきた。
「何よ、忘れたとでも?なら中には通せないわ。此処はホグワーツではないのよ、教えてあげる義理などないんですからね!」
「待って。今、ホグワーツって言った?」
「そうよ。私はこんな狭くて暗い隠し通路のような場所にいるべき存在じゃないの。ホグワーツのグリフィンドール寮の扉を任された、由緒正しき肖像画なのよ!」
「グリフィンドール…?寮の扉…?」
「何度も同じことを言わせないでッ貴女達此処の人間は、今まで見てきたどのマグルより意地の悪い人間だわ。合言葉を覚えていないのなら通せません!帰って頂戴!」
「…も、もしや婦人…つかぬことをお聞きしますが」
「何よ」
「此処へはどうやって?まさか…拐われてきたとか?」
「んまァ!辱める質問は止めて頂戴!本当に意地悪ね!」
「…ビンゴ」
後から後から婦人から溢れ出す情報量を整理するのに時間が掛かったが、どうやら雪の読みは当たったらしい。
「フレッドとジョージが言ってた盗品って、婦人のことだったんだ…!」
魔法学校であるホグワーツから盗み出されたのは、雪の予想していた箒や杖のような魔法グッズではなかった。
生物として成り立つのか定かではないが、この生きたように話し動く肖像画のことだったのだ。