My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「ワインは最初から左手だったのに!私の証言で持ち手を変えるなんて話を聞いてる何よりの証拠!ってか動いた!こんな簡単な誘導に引っ掛かるなんて頭の緩」
「んまァ!私を騙したというの!?なんて卑怯極まりない!」
「ギャー!ししし喋ったぁああ!?!!!」
「キャァア!悲鳴なんて上げないで頂戴!驚くでしょう!?」
「ぎゃー!!!!」
「キャァア!?!!!」
互いに互いを指差し悲鳴を上げる。
顔面真っ青な雪に対し、向き合っているのは婦人の絵画だった。
金色の額縁の中で蠢く姿は、まるでキャンバスに取り込まれた生きた人間のようだ。
その顔をムンクの叫びのように変えて、口から迸る甲高い悲鳴。
忙しなく一人と一枚を見つめるティムキャンピーは、困惑気味にぐるぐると頭上を飛び回った。
「ほ…本当に、絵が、動いて、る…」
やがてへなへなとその場に力なく尻餅を着いた雪が、恐々と絵画を見上げる。
喋るだけではない。
忙しなくキャンバスの中で見え隠れしている様は、まるでキャンバス内の広い世界を行き来しているようだ。
「絵ですって!?私にはちゃんと肖像画名があるのよ!」
「し、知らないよそんなの…」
「"太った婦人(レディ)"よ、きちんと婦人とお呼びなさい!」
「太った婦人?…そのまんま」
「まぁ!なんて失礼な人間なのかしら!」
「………(失礼なのはそんな名前付けた人だと思うけど)」
キィ!と癇癪を起こしたように声を荒げる婦人は、確かに何処から見てもふくよかな体をしていた。
どうにも感情豊かな婦人の勢いに圧されてしまったが、これで噂は本当だったと確信を得た。
(リッチモンド伯爵はこのことを知っていた?)
明らかに隠されるようにして飾られている婦人の絵画。
となれば、この屋敷の主はそのことを知っていた可能性が高い。
「ね、ねぇ…婦人。ウィリアム・リッチモンドって人間のこと知ってる?」
言葉を話せるということは、話せば通じる相手なのかもしれない。
恐る恐る雪が問い掛ければ、憤慨していた婦人の動きがぴたりと止まる。
しかしわなわなと唇が震えたかと思えば、その姿は額縁の外へと隠れてしまった。