My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「っ!」
勢い良く振り返る。
しかし雪の視界には変わらず微笑む、微動だにしない婦人の絵画だけ。
冷や汗が背中を伝う。
それでも確かに見たのだ。
雪の姿を追うようにして動いた、婦人の両の眼を。
「………」
恐る恐る絵画に歩み寄る。
じぃっと間近でキャンバスを凝視した。
しかし他の絵画同様、眼球が触れそうな程観察しようとも、油絵の塗り重ねられた模様は模様。
そこに生命が宿っているようにはとても見えなかった。
うーん、と考える。
「………」
ううん、と考える。
「……ねぇ、ティム」
「ガゥ」
「この婦人の絵、左手にワイン持ってたっけ?」
「…ガァ?」
「右手じゃなかった?」
「ガゥガゥ」
「右手だった気がするんだけど…」
じぃいっと疑うように絵画を睨む。
穴が空きそうな程に、間近でじっと。
そのまま沈黙が続くこと2分。
不思議そうに頭を傾げるティムキャンピーを、徐に雪は握りしめた。
「ガ?」
「証拠の写真を撮っておこう。後で伯爵に突き付けて、ワインの持ち手が変わってないか確認させる」
「ガゥッ」
「大人しくしてて。カメラの準備するから」
ふるふると顔を振るティムキャンピーを押さえ付けるようにして絵画に背を向けると、雪はゴーレムをあれやこれやと弄り回した。
どうにかセットできたカメラに良しと意気込んで、再び絵画に向き直る。
そこには微動だにせず、変わらない微笑みを浮かべている婦人がいた。
右手にワインのグラスを持って。
「やっぱりかァアアア!!!!」
途端に雪の雄叫びが響いた。