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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



(もしかして、この道の途中に隠し扉があったとか?)



はっと顔を上げて、元来た道へと視線を巡らす。
壁に耳を当て、拳で軽く叩いては、異変はないか確かめる。
しかし不信要素はない。



「うーん…?」



一体男女は何処へ。
腕組みしながら唸る雪の足元を僅かに背後から照らす、オレンジ色の寂しい明かり。

ゆら、とそれが微かに揺れた。



「?」



揺れたように見えただけだったのか。
振り返れば行き止まりの展示物のみ。
ティムキャンピーは大人しく雪のベストの中に潜り込んでいる為、ゴーレムの仕業ではない。



(気の所為?)



首を傾げつつ、再度元来た道へと目を向ける。
一度外に出て調べ直すのが得策か。
思考を巡らせていると、展示広間で感じた時と同じ奇妙な違和感を覚えた。



「………」



音はない。
匂いもない。
しかしじっと感じる、誰かに見られているような気配。

思わず動きが止まる。
どく、と心臓の音が響く。

あの時は幾枚もの絵画の視線を感じていた為の違和感だとわかった。
しかし今、この場にあるのは背後に飾られた一枚の絵画だけ。
他の絵画と同じに、恐らく著名人が残した名画なのだろう。
しかしモナリザのような薄い微笑みを浮かべた婦人の顔は、そこまで視線を感じるものだっただろうか。



(そういえば…あの絵、他の絵と違って物々しい雰囲気がない)



見るからに眉を潜めてしまうような、血飛沫も千切れた体の部位も描かれてはいない。
極普通の女性の自画像だ。

ひたり、と左の壁際に身を寄せる。
じっと背後に感じる視線の気配。

ひたり、と今度は右の壁際に身を寄せる。
変わらずじっと背中に張り付くような視線。

展示広間ではスポットライトから遠ざかれば、絵画達の視線は感じなかった。
しかし何故この通路内では、何処に身を置いても何かを感じるのか。



(もしかして…視られて、る?)



後を追うように、視線が追ってきているのならば。

ごくりと息を呑む。
そっとマスカレードマスクを外すと、雪は硝子のような光沢のマスクの内側を脇へと下ろした。

ひたり、と再び体を移動させる。
絵画に背を向けたまま、脇に隠したマスクを盗み見てみる。

マスクの内側に映った婦人の眼が、そろりと。



「っ」



動いた。

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