• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



そわりと辺りを見渡す。
ぱたぱたと周りを飛ぶティムキャンピー以外に、生物的なものなど何もいない。
しかし中央の椅子に座っていれば、感じる視線がなんなのか気付いた。



「これ…」



幾枚もの絵画を楽しむ為に、芸術品の持ち主が設置した手製の展示広間。
スポットライトで照らされているのは絵画ではなく、広間中央に座る雪だ。
そこに集まる視線は、周りの絵画達から。
赤子を食らう母や、処刑される女、拷問器具を作る男、彼らの目は全て雪へと向いている。



「…悪趣味」

「ガ?」



思わず顔を顰めてしまう。
どの絵画も視線が同じ所へと向くように、計算されて展示されている。
目を見張るような名画ばかりだ。
例え生物ではなくとも、そこから感じる視線は確かなもの。
雪と同じ場に腰を落ち着け、その視線を感じながらリッチモンドはさもうっとりと酔い痴れていたのだろう。
想像できる彼の姿に、雪は避難するようにその場から離れた。



「これじゃあ絵が動いた、なんて噂されても可笑しくないかもね…」

「ガゥ?」

「噂は半分当たってたかもってこと」



それでも絵画は絵画だ。
間近で備に観察し触れてもみたが、イノセンスらしい兆候は見当たらなかった。
となれば長居する必要はない。
半ば逃げるようにして、雪は展示広間に背を向けた。



「…となると…あっちも探してみないとだよね…」



新たに顔を向けた先は、以前リッチモンド邸を訪れた時には遠慮した更に奥の芸術広間。
絵画とは異なるリッチモンドの趣味の品が飾られている場所だ。



「ティム、ついて来てくれる?」

「ガゥ」

「ありがとう」



昼間でも薄暗かった其処は、僅かな照明が灯されているだけで静まり返っている。
物々しい雰囲気の続く其処につい下がる雪の肩に、ぽちょんと乗る小さなゴーレムがこの時ばかりは頼もしく見えた。

/ 2655ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp