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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



✣ ✣ ✣ ✣


「注意しろ、だってさ。ふふ」

「ガゥ?」

「イノセンスある所にAKUMAあり。そんなの1+1=2ってくらい当然の方式なのに。今更だよね。ふっふふ」

「ガ、」



天井から垂らしたロープに掴まり、高い壁伝いに足をかける。
半ば宙に浮いた不安定な姿勢で、雪は顔を綻ばせていた。
男物のベストから顔を覗かせるティムキャンピーが物申すように一鳴き。
ぴたぴたと丸い尾の先で雪の頬を叩くところ、文句の割に笑顔なところを指摘しているのだろう。

当然の忠告だったが、そんな忠告など今まで神田から一度も聞いたことがない。
怒り混じりの罵倒ならまだしも、あんな物静かな声で投げ掛けられるなど。
だから顔の緩みは止まらないのだ。



「それよりティム、結局ついて来たね。アレンの処に戻らなくていいの?」

「ガァ♪」

「美術品に興味でもあるの?お洒落な趣味だね」



楽しそうに鳴いたティムキャンピーがベストからするりと抜け出る。
飛び交う壁周りには沢山の絵画。
リッチモンドの手製であろうスポットライトのような展示広間に、一人と一匹はいた。
昼間とは違い月の光のみを差し込ませる芸術の間は、静まり返っている。
淡い月の光に照らされる絵画達は一見美しくも思えるが、描かれている内容が内容だ。
血飛沫や狂気の顔が浮かび上がる様は、なんとも不気味に思えた。



「うーん…やっぱりどれも私には普通の油絵や水彩画に見えるけど…」

「ガゥガゥ」

「ティムもそう思う?名画だから今にも動き出しそうな気はするけど」



高い壁伝いに一枚一枚、間近で絵画を観察して回る。
息を吹き込まれたかのような見事な絵画達だが、しかしそれまで。
実際に動き出すことなどなく、ひっそりとその場に息衝いているのみだった。



「…なんか少し気分悪くなった。休憩」



するするとロープから床へと伝い下りる。
間近で物々しさばかりの絵を幾枚も観察していると、多少とも血の気が引く。
スポットライトの真下に着くと、リッチモンド用なのだろう、中心に置かれた椅子に腰を下ろした。
ふかふかのクッションが疲労を和らげる。
しかし何処となく落ち着かない。
ひっそりとした静寂の中で、じっと何かを感じるのだ。



(……視線?)



じっと、何かに見られているような。

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