My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「あれ。やっぱり少年だったのか」
広いダンスホールが見渡せる二階の柵に肘を乗せて、男は眼下に呟いた。
黒いマスカレードマスクの下から覗く目が捉えたのは、高身長な中国風の美女と踊る幾分か身長の劣る彼。
(少年。って程じゃなかったな…体は)
ふと思い出すように、ワイングラスを持つ自身の手を見下ろす。
一人、ダンスホールの隅でそれは楽しそうに踊る姿は興味を惹いて、なんとなしに見守っていれば後方注意を怠った体はステップ越しにぶつかってきた。
咄嗟に抱きとめた何枚もの衣類越しに感じた体は、自分と同じ男とは言い難いものだったように思う。
「キーッ!なんだい君達その食べ方は!食べ散らかし過ぎ!」
「あん?うっせーな、服は汚してねェだろ!」
「だからって床に溢していいとは言ってない!そこ!ホラそこも!」
突如後方から響く喧しい声に、思考が中断される。
げんなりと肩を下げてちらりと目線だけ向ければ、テイクアウトした食事を貴族らしかぬマナーの悪さで食べ散らかす少年少女の姿が見えた。
「ったく!千年公直々の命令じゃなけりゃ、こんな仕事蹴ってやれたのによ!」
「ヒ〜…大体、なんでデロはこんなカッコなの?ヒラヒラして動き難い〜」
「まだ言ってるのかい、ぐちぐちと煩いな。そのドレスは本来はロードが着るものだったのさ。なのに学校の用事で来れないって…言っ…て……ロードォオオ!」
「テメーがうっせーよ!!!だからってジャスデロに変なもん着せんな!危うくナンパされかけたじゃねーか!」
否、一人はモノトーンの女性物ドレスを着ているが、中身はどうやら少年であるらしい。
ミニハットの乗った金髪フリルを揺らす彼の肩を抱いた黒髪の少年が、苛立ちげに声を上げる。
「へえ、軟派されたのかい?流石ロード用に特製したドレスなだけあるね」
「…そっちかよ」
「ヒ…ロードバカだね。ヒ」
ふふんとジャスデロに着せたドレスに胸を張る、長身長髪の男性。
個性的な蝶型のマスカレードマスクを身に付けた顔が、不意に柵の傍に立つ男に向いた。
「そんな所で突っ立ってないで、二人に社交マナーの手本を見せてあげてよ。その為に君にも同行して貰ったんだから」
「同行って言うより強制連行だろこれ。俺は来たくなかったんだけど」