My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「俺は今のお前でいいんだよ。お前も今の俺で満足しとけ」
やがて告げたのは、ぶっきらぼうなぼそり声。
ぽけ、と再び神田を見上げれば、ぶつかった視線がなんだよと訴え掛けてくる。
「…ううん」
ふにゃりと雪の口元が緩む。
なんでもないよと首を振って、嬉しそうに呟いた。
「私も今のままのユウがいい」
柔らかく告げる声は低い男性のもので、マスカレードマスクで表情は悟り難い。
それでも思わず目を見張った。
(…男でも女でも関係ねぇのは同じかもな)
どこからどう見ても男にしか見えない雪に、抱いた感情は確かなもの。
にへらと笑うその顔に、自然と指先が伸びて───
「んむっ?」
「緩い顔で笑ってんなよ」
「ちょっと引っ張らないれよ」
「…そんなゆるゆるだから男装してても男に言い寄られんだろが」
「んむっ!?痛ッ痛い痛い!って見へはの!」
「見えたんだよ阿呆」
───カツン、と大理石を踏むステップが止まる。
賑わうダンスホールを通り抜け、言い寄っていた男達の視線から逃れた神田は雪から身を離した。
「大丈夫そう?」
「ああ」
「じゃあ私はこのまま内部調査に入るから、ユウにクロウリーのこと任せていいかな」
「仕方ねぇな」
「クロウリーのことあんまり怒らないであげてよ」
ぴょこ、と雪の袖口から顔を覗かせた神田の通信ゴーレムが、主の懐へと戻り込む。
「…その胸何詰めてんの?」
「聞くな」
興味深そうにチャイナドレスの胸元を見つめながら、くすくすと雪は笑った。
「じゃね。広間はよろしく」
「…雪」
「ん?」
「注意しろよ。イノセンスの側にはAKUMAもいる」
ぱちりと瞬き一つ。
切り替えるように仕事の顔をすると、それでも雪はひとつ笑ってみせた。
「了解」