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My important place【D.Gray-man】

第47章 リヴァプールの婦人



「じゃあ…」



求められて悪い気はしない。
おずおずと目の前の体に身を寄せ預けてみる。
握っていた手はいつの間にか掴まえられて、後頭部を掴んでいた手はいつの間にか腰に添えられていた。
傍から見れば男がエスコートされるという可笑しな構図だが、神田の真っ直ぐな瞳を見てしまえば不思議と気にならなくなった。
優しいメロディの流れに身を任せて、目の前の体に五感を向ける。



(あ。ユウの匂い)



化粧に混じる、本来の彼の香りに気付けば自然と肩の力が抜けた。
艷やかな赤い唇やマスクの下からでもわかる長い睫毛、ファンデーションで整えられた絹のように白い肌。
どこからどう見ても女性の姿をしているのに、手を握る長い指や慣れ親しんだ香りが無性に胸を高鳴らせる。
どこか現実離れした、夢心地のような雰囲気に呑まれた。



「私、ユウが女性でも好きになってたかも」

「…何変なこと言ってんだ」

「なんとなく、そう思っただけ。でも本音だよ」



元より同性愛に偏見などない。
目の前の存在が男であろうと女であろうと、今と同じ想いを抱けても雪にはなんら不思議ではなかった。
例え女性であったとしても、神田の持つ意志の強さや行動力は何も変わらなかっただろう。
根本が変わらなければ、神田は神田だ。



「俺は女なんて願い下げだな」

「あ、偏見。同性愛だって立派な愛の形なんだからね」

「違ぇよ、そういう意味じゃない」

「? じゃあ何」

「………俺は今のままでいい」

「??」



どこか歯切れの悪い返答に首を傾げるも、それ以上神田は口を割らなかった。

男だ女だ、そんな括りで雪を見てこなかった。
だからこそ雪と同じに愛の形に性別など関係ないだろうとは思っている。
それでも、男として雪の相手でいたいと思った。
男装していようとも触れれば伝わる、柔らかな肌や四肢。
心だけでなくこの体の奥底まで自身の色に染めることができるのは、神田が男で在るからだ。

独占欲、と言えばそれまで。
それでも隣の席と同じに、譲れない思いだ。

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