My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「じゃあ後はクロウリーをあの場から連れ出し…て?」
楽しそうに雑談しているところを邪魔するのは偲びないが、仕事は仕事だ。
そうクロウリーの下へ向かおうとした雪の体を引き止めたのは、腕を掴んだままの神田だった。
「ユウ?」
「ダンスを申し込んだのはお前だろ」
「え。っと、それは勢いで…」
「さっきのゲス野郎共が見てる中で、俺を他の男に引き渡すのかよ」
「う。それは…でも、リッチモンド伯爵が」
「あいつらの目から紛れるだけだ。つき合え」
「うわっ」
またしても強引に引き寄せられたかと思えば、ダンスホールへと連れ出される。
身長差のある神田の一歩は、雪の一歩とは歩幅が違う。
緩やかなチークタイムだとしても、もたつく雪は上手く神田をエスコートできなかった。
「なんだその屁っぴり腰。お前男だろ」
「そう、だけど。こういうダンスの経験なんてないし…っ」
「俺もねぇよ。こういうのは適当に足踏みしてりゃいんだろ」
「そんな簡単なものでも───痛いッ」
「悪い」
互いにダンス達者な訳ではない。
神田の足が雪の足を踏み付けることも、雪の体がリズムから外れることもザラ。
どうにか周りにぶつからないようにするだけで精一杯な雪の目は、足元や周りしか見ていない。
その様に神田は僅かに眉を寄せると、後頭部を鷲掴んだ。
「わふっ」
雪の顔が押し付けられたのは、目の前の広い胸板。
タオルでも詰め込んだのか、僅かに女性の胸を思わせる形状のそこで顔を上げれば、不服そうなマスクの中の目とかち合う。
「体引っ付けてろ。変に距離取るからずれんだよ」
「いや…この格好じゃ、私がエスコートされてるみたいになるから…」
「いいだろ別に。誰も見てねぇよ」
「いやいや見られてる。自分の顔をもっと自覚して下さい」
「煩ぇな」
「えっなんで舌打ちされなきゃ」
「俺はお前しか見てねぇんだから、お前も俺だけ見てろ」
変声機で女性ものに変えていても、刺々しい物言いは変わらない。
しかし真っ直ぐにぶつけてきた神田の言葉は、真っ直ぐに雪を求めるもので。
ぽけ、と見上げる雪の目に、女装していようとも日頃の神田の姿が思い重なった。