My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「え?何?その先はダンスホールだけど…っ」
「ガァっ?」
「くろすけってば…!」
ぐいぐいと引かれて、やって来たのはダンスホールの隅っこ。
其処で止まると、忙しなくぴょこぴょこと目の前で跳ねる真っ黒なゴーレム。
くるりくるりと雪の周りを飛び跳ねる様は、まるでダンスをしているかのよう。
「(もしかして…)誘ってるの?ダンス」
『ピ!』
言葉を持たないゴーレムの主張は理解し兼ねたが、もしやと問えば明るい音声で返される。
どうやら予想は当たったらしい。
「ティムと言いくろすけと言い、主放って何してるかと思えば…」
『ピ♪ピ♪』
「ガァ♪」
通信手段という自分の仕事を忘れている二匹に説教の一つでもしようと思ったが、珍しく二匹揃って楽しげに踊るものだからつい言葉も呑み込んでしまう。
代わりに出たのは、くすりと微かな笑い声。
(まぁ、いっか。楽しそうだし)
リッチモンドが現れるまでなら、と。
誘うように跳ぶ二匹に両手を差し出せば、ぴょこんと丸いボディが乗る。
「じゃあ折角だし。一緒にダンスでもどうですか?」
『ピィッ』
「ガゥッ」
「ふふ。両手に花だなぁ」
華やかに着飾った女性相手ではないが、それだけで充分愛らしい二匹のゴーレムに笑いかける。
ダンスホールの隅でなら、そう目立ちもしないだろう。
ちょんと小さな羽を軽く握ると、二匹をお供にステップを踏む。
タイミング良く変わるアップテンポな曲に、自然と笑みも弾んだ。
くるりくるりと舞う様は、一人で踊っているようにも見えなくはない。
しかし此処はダンスホール。
それを咎める者などいるはずもなかった。
ステップなんてデタラメ、ルールなんてものもない。
それでもゴーレムと興じるダンスは、雪に笑顔を灯すには充分だった。
くるり、くるりと回っては。
たたん、たたんと足を踏む。
右へ左へ、前へ一つ。
それから後ろへステップを弾んで───
ドンッ
「わッ」
ダンスに夢中になっていた体は、人との距離に気付かなかった。
思いきり背後からぶつかってしまいバランスを失う体は、後ろから倒れる。
「おっと」
抱き止めたのは、背後で広がる二つの腕だった。