My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「いや、別に変なちょっかいは…」
「かけられて堪るかってんだ。女漁りたきゃ他所行けよ。コイツはオレの連れだ」
初対面からこうも無遠慮な物言いをする者は、そういない。
思わず目を丸くする雪に構わず、ケッと毒突くと早々と男の手が少女の手首を握る。
「行くぞッ」
ズカズカと大股で去る彼に手を引かれ、あっという間に人混みに消えていく少女。
荒ぶる少年に対し、振り返りひらひらと手を振る少女の様は、どこまでも子供のようだった。
「…行っちゃった」
「ガゥ」
「…女の子を誘うのって大変だね、ティム」
「ガァ」
ベストからぴょこんと顔を出したティムキャンピーに呟きながら、しみじみと肩を落とす。
右を見ても左を見ても当たり前に女性をエスコートしている男性の姿は見掛けるが、雪からすればどうすればそんなにスムーズに女性を誘えるのか疑問でしかない。
やがて諦めに似た溜息を一つ。
「ま、独り身は寂しくイノセンスの聞き込みでも───」
『ピィッ!』
「おぅふっ」
一足先に仕事に取り掛かるかと踵を返し、くるりと人混みを背を向けた時だった。
ぼすんと腹に弾丸のような一打。
腹に詰め込んだ料理が出そうだと口に手を当てながら、雪が目にしたもの。
「くろすけ?」
『ピ!』
それは神田専用通信ゴーレム。
「なんだって此処に…」
「ガゥウ!」
『ビィッ!』
「あーそれやめて。喧嘩はあの二人だけで充分っ」
主の下から離れて何をしているのかと思えば、反発するティムキャンピーにくろすけも丸い眼球を押し付ける。
目の前でばちばちと火花を散らし始める二匹のゴーレムを、雪は慌てて両手で掴んだ。
「で、何?ユウにもしかして何かあったの?」
問えば丸いつるつるボディは、雪の掌の上で忙しなく目玉を横に振る。
どうやら違うらしい。
なら何故此処にと雪が問い掛ける前に、袖に潜り込んだかと思えば強い力で引っ張ってくる。
ぐい、と引かれて雪の足が一歩前に進み出た。