My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「え、と…フルーツ、取りたかったんだよね?どうぞ(…じゃ、なくて)取って、あげ、ましょうか?」
現在、自分の立場は男なのだと自覚すると、取り繕うように笑いかける。
焦りも混じりぎこちなさの残る雪の対応に、少女は気を悪くすることなく首を横に振った。
グーで握ったフォークで、カットされたパインをぷすりと一刺し。
そのまま大口で頬張る姿は、なんとも貴族らしかぬ姿だ。
そして。
「え。それかける、の?」
きゅぽんっとタバスコの蓋を開けたかと思えば、遠慮なしにフルーツ盛りにどばどばとかけていく。
そのまま再びぷすりぷすりとフォークで食べ始める少女は、貴族の嗜み以前に人として常識が少し外れているのかもしれない。
「お、美味しいの、それ…」
恐る恐る問えば、こくりと頷かれる。
そこでようやく雪は異変に気付いた。
(この子、お話できないのかな?)
感情は見え隠れしているが、一切言葉というものを発さない。
反応を示してくるところ、消極的になっているようには見えない。
となれば声を発することができないのだろうか。
しかしそんなことを初対面で聞けるはずもなく、雪は他人には他人の趣旨嗜好があると納得することにした。
ずい、とタバスコ色に染まったカットメロンを差し出されるまでは。
「(え。)…食べろって?」
再びこくりと頷かれる。
口元はにんまりと笑っているところ、好意あってのことなのだろう。
どうしたものかと一瞬悩む。
「(でも生ハムメロンとかもあるし…しょっぱいものは合うし。これも合うのかも…!)…あ、ありがとう」
半ば言い聞かせだとはわかっていたが、余りにマスクの下の目がキラキラと青く輝いているものだから邪険にすることもできず。
フォークを受け取り、意を決してメロンを口に運ぶ。
「お、美味…まッず!辛!!!」
予想は見事に予想通りのままだった。
向けようとした笑顔も、ものの一秒で消え去る。
近くのゴミ箱に顔を突っ込む雪を、ベストの中に隠れていたティムキャンピーが心配そうに見上げている。
ただ一人、謎の少女だけは面白そうに声もなく笑っていた。