My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「───何これ美味しっ」
「ガァっ」
「ふふ、口元ソースだらけだよ。気持ちわかるけど」
あまり目立たないようにと、立食場の隅で取り分けてきたバイキング料理にティムキャンピーと舌鼓を打つ。
美味しい美味しいと口にしているのは、キャビアが乗った白身魚のカルパッチョのようなもの。
料理名もよくわからないが、とにかく美味しい。
そして高級品の味がする。
「ジェリーさんの料理も美味しいけど、此処の料理もまた別格だなぁ」
美味しいものを味わっているだけで笑顔になるのは人類の共通点。
ティムキャンピーに習って口の中に美味なるものを詰め込みながら、目先のフルーツの盛り合わせにも手が伸びる。
ぴたり、とそこで指先が触れ合ったのは偶然だった。
「あ。ごめんなさ…ぃ…」
手を引っ込めながら、軽く当たってしまった手の主へと謝罪を向ける。
あまりに料理に夢中になっていたからか、傍に人がいることに気付かなかった。
だからこそ、隣に立つ容姿に雪は視線と共に声まで止めた。
(…可愛い)
其処に立っていたのは、ふんわりと巻かれた金色の長髪を靡かせた見知らぬ少女だった。
雪と等しくマスカレードマスクをしている為、人相はわからない。
しかし手入れの行き届いた柔らかい金髪に、艷やかな肌。
白黒のシックな色合いながら、フリルをふんだんにあしらったクリノリン調のドレスに、ちょこんと頭に斜めに飾られているレース付きのミニハットが可愛らしい。
ポップさを残しつつ、キュートさも忘れていない、目を惹くドレスだ。
思わずまじまじとマスクの下から観察する雪に、視線を感じたのか少女が僅かに身を退く。
「あ、ご、ごめんなさい。邪な気はないというか…っ初めまして、ご、ご機嫌よう?」
こういう時、貴族ならばどう挨拶するかなど知らない。
慌てて両手を振りながら、焦りも混じり思い浮かんだ言葉を片っ端から吐いてみる。
そんな雪の姿に、やがてくすりと微かに少女の口元には笑みが浮かんだ。
ほっとする。
どうやら嫌な気になっては、いないらしい。