My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
聴き惚れるような生演奏のクラシック。
塵一つ見当たらない、鏡のように磨かれた大理石の床や壁やモニュメント。
広間の中央で優雅にダンスを舞う者もいれば、豪勢な料理の並ぶ机で立食しながら話に花を咲かせる者もいる。
各々が自身の役割を理解しているかのように、ゆったりと流れていく時間の中に身を浸す貴族達。
「あー。あー」
その様を横目に、雪はバルコニーに続く大きな硝子扉の前で耳元に手を当てていた。
「ああ。こほんっ」
ピピ、と機械が声帯に反応を示す。
こほんこほんと咳を鳴らした後、再び口を開く。
「あ、あー。うん、よし」
そこから漏れる声は、女性のそれではない。
低く声変わりした、男性の声帯そのもの。
科学班屈指の出来である声帯変換機を片耳の中に仕込み、具合を確かめる。
どうやら良好のようだ。
(これを付けてれば、ユウも大丈夫かな)
異性へと変装している雪と神田にだけ配分された、声帯変換機器。
これがあれば、あの神田のドスの利いた声も誤魔化すことができるだろう。
「ユウは何処に…あ、いたいた」
人気の多い広間だが、流石囮役に推薦しただけある。
高身長のクロウリーに、女性に扮している神田も高身長、となればそれなりに目立つ訳で。
クロウリーの腕に渋々と手を絡めて立つ神田の姿を、すぐに発見することができた。
「神田…そう怖い顔しないで欲しいである…」
「仮面付けてんだろ。バレるかよ」
屈辱だと言わんばかりの雰囲気でクロウリーに寄り添っている神田からは、マスクをしていても負のオーラが漂っている。
まるでそんな会話が聞こえてきそうだと、雪は思わず苦笑した。
(ま、あれだけ威嚇してたら変に周りからも声掛けられないだろうし。クロウリー、頑張って耐えて)
心の中でガッツポーズ、クロウリーにエールを送る。
「さて、アレンとリナリーはどうかな…」
マスクの下の目でキョロキョロと辺りを見渡せば、真っ白な髪はクロウリーと神田とは別の意味で目立つ。
それは広間の中央で、音楽に合わせてダンスに身を投じていた。