My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「うわーあ…」
「凄い人の数ね」
「錚々たる衣装の種類である…」
「半ばコスプレのようにも見えますけどねぇ」
「正に"仮面舞踏会"、と言ったところかな」
遠目から見ても華やかな明かりに包まれていた、巨大なリッチモンド邸。
近付けば一層、その華やかさに目が惹き付けられた。
至る所から赴いてきたのだろう、煌びやかな衣装を身に纏った貴族達が、使用人に手を添えられて馬車から降りてくる。
巨大な門は開放されており、人々は吸い込まれるように明るい世界へと足を進めていく。
その流れに乗るままに、雪達も屋敷の中へと赴いた。
こつり、と再び仄かなマリーローズ色の大理石を踏む。
以前来た時より上品に響くのは、衣装用にと合わせられたヒールの所為だろう。
まじまじと興味深く辺りを見渡すアレンとリナリー。
その横で貴族達の衣装に目を見張るクロウリーに、トクサはいつもの如く嫌味を一つ。
今回のテーマである舞踏会の名を口にしながら、雪は高い天井にぶら下がったシャンデリアを見上げた。
キラキラとシャンデリアの光に反射している垂れ下がった飾りは、宝石だろうか。
「この間来た時より、豪華になってる…」
「迷子になんなよ」
「大丈夫だよ、アレンじゃあるまいし」
「雪さん、そんなはっきり」
「リナリー、アレンのことしっかり見ててね」
「うん」
「り、リナリーまで…っ」
神田の忠告を慣れた様子で返すと、雪は背伸びをしなければ見渡せない程の人で埋まった広間に目を向けた。
見たところ、屋敷の主の姿はない。
「とりあえず、リッチモンド伯爵が現れるまでは待機。通常行動で行こう」
手筈通りに、と小声で伝えると、目元を覆っているマスカレードマスクの位置を指先で軽く調整する。
(良かった、仮面舞踏会で)
シックな衣装よりも、ふんだんにフリルやレースがあしらわれた個性的な衣装が多いのは、この舞踏会の名目のお陰だ。
その名の通り、皆目元には人相を隠すマスカレードマスク。
これで目元と体のラインを隠してしまえば、女性だとは気付かれないだろう。