My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「やっぱり様になってるね。サイズもぴったりだし」
「………」
「そんな顔しないでよ、折角着飾ったのに」
「………」
「美人が台無ウッフ」
彼女の下まで歩み寄れば、皆まで言わせず手元を隠す程に長いチャイナドレスの袖から伸びた手が雪の首を鷲掴んだ。
急に急所を握られ、思わず息を詰まらせる。
「言いたいことはそれだけか」
真っ赤な色気を纏う唇から発せられたのは、末恐ろしい程にドスの利いた低い声。
(うわあ…喋ると台無し)
折角見惚れる程美しい形をしているのに、その一言で美女への期待を見事に崩し去っている。
首を鷲掴まれたまま、雪は目線を上げつつ長身の彼女を見上げた。
「ごめんて、そんなに怒んないで。ユウ」
否、"彼女"と化している"彼"を。
「それ以上力入れられたら首絞まるから。落ち着いて」
「俺は落ち着いてる。冥土への言葉はそれだけかって聞いてんだ」
(全然落ち着いてない!)
美人が怒ると尚怖い、とは言うがどうやら本当のようだ。
かっ開いた切れ目の奥の瞳孔は完全に開き切っている。
凄まれると普段の神田の倍迫力があるようだった。
「今から冥土になんて行けないから。もう馬車が来る時間迫ってるから。ほらっ」
腕時計を指差し示せば、綺麗な眉がくっきりと深く皺を寄せる。
「それに言ったでしょ、囮役は派手な方が尚良いって。ユウくらいの美女が舞踏会にいたら絶対皆惹き付けられるから。効果抜群。それに囮役を自分から買って出たのはユウでしょ?」
「それが女装だなんて聞いちゃいねぇ」
「そりゃ言ってなかったからね」
「………」
「っ絞まる絞まる絞まってる!首!」
「嵌めやがったな」
声は荒らげずとも静かに力を加えてくるのは止めて欲しい。
顔を青くしながら雪は首を握る骨張った立派に男性の手であるそれを叩くと、気道が詰まる前に声を張り上げた。
「だって私が嫌だから!ユウの男としての礼服姿見せるの!」
ぴたりと、神田の力が止まった。