My important place【D.Gray-man】
第17章 憩.
「花の名前くらい知ってます。これはコスモスでしょ、それはキキョウでしょ、……」
「二つで止まったぞ」
今思い出してるから。
頑張ってるから、ちょっと待って。
「ええっと…」
「それのどこが知ってるってんだよ」
「ちょっと待って、今頑張ってるからっ」
仕方ないでしょ、そんな花摘みして遊んだ記憶とかないし!
関わったのなんて、精々小母さんの花の水遣りくらいだし!
「えーっと、あれは…そうだ! フグリ!?」
「蓮華だ阿呆」
ぽんと手を打ち、目の前の花を指差す。
途端、秒速で駄目出しされた。
蓮華って…ああ、蓮の花!
…って、
「……」
「…んだよそのツラは」
「いや…神田がまさか花の名前知ってるなんて…」
「絞めんぞコラ」
思わずまじまじとその顔を見れば、眉間の皺が一層濃くなった。
あ、これ以上言ったら殴られる。
話題を変えよう、私。
「えーっと…蓮華の花なら知ってるよ。あの花、こういう湖以外の…確か沼地とかでも、花を咲かせられるんだよ」
「…知ってる」
「あれ、そうなの?」
驚いた。そんな細かいことまで知ってるなんて。
思わず再び神田を凝視すれば、その目は湖に咲き誇る蓮華に向いていた。
「……」
あれ…?
じっと見つめる横顔は、いつもと変わらないように見えて、なんだかいつもと違って見えた。
「…これだけ葉が浮いてるなら、きっと花も沢山あるんだろうね」
なんとなくずっと見続けられなくて、視線を湖に戻す。
沈黙を作りたくなくて、話題を振って。
「見てみたいな、一面に咲き誇ってるところ」
今はまだ、ぽつぽつと湖に花々が浮いているだけだけど。
これだけ沢山の葉が浮いてるなら、花ももっと沢山あるはず。
こんな大きな湖で全ての蓮華の花々が咲き誇れば、きっと今よりずっと綺麗で壮観だと思う。
「……お前…」
返された神田の声は、いつもより小さなものだった。
よく聞き取れなくて、視線を向ける。
見えたのは、驚いた顔。